●聖夜〜そして、罠〜
……聖夜。
珍しくラブラブモドのふたりは、公園でお互いのプレゼントを交換した。
「これは、カシミール地方に住むヤギの毛糸で……」
もちろん、大嘘。
実際には喪作が手編みしたロングマフラー。
それでも、麻璃流は喪作の言葉を信じ、『こんなに高いものを……。ありがとうございますねぇ』と笑顔で返す。
「あたしは格好いいマントに、鳳凰の刺繍を入れてみたですぅ」
満面の笑みを浮かべながら、麻璃流は喪作に鳳凰の刺繍の入ったマントを手渡した。
しかし、そこには何故か鶏の刺繍しか入っておらず、どこにも鳳凰の姿が見当たらない。
だからと言って麻璃流を傷つけるわけには行かなかったため、『この鶏がいずれ鳳凰に成長するんだな、……たぶん』と自分自身を納得させた。
その疑問を振り払うようにして、麻璃流の首にロングマフラーを巻き、喪作が幸せそうに溜息を漏らす。
麻璃流も『こんなクリスマスも悪くない』と思った矢先……、喪作に忍び寄る魅惑の影。
「そっこのミニスカサンタのおねー……」
まったく躊躇う事無く、喪作が能天気な声を響かせる。
喪作の視線の先には、ぼっきゅっぽんなおねーさんが……。
それと同時に喪作の中で『本能』が目覚め、いつもの調子でおねーさんに突進した。
「……もうっ、せっかくいいムードだったのにぃ」
そのため、麻璃流が大きく頬を膨らませ、グイッとマフラーを引っ張り、喪作がまるで潰れた蛙のように『ぐぇっ!』と悲鳴を上げる。
「あ、これは止めるのにも丁度良いですぅ」
まったく悪びれた様子もなく、麻璃流が何度もマフラーを引っ張った。
そのたび、喪作が苦しそうに悲鳴を上げたが、麻璃流の耳に届くよりも早く雑音に掻き消されてしまっている。
(「まさか、自分で編んだマフラーで、こんな目に遭うとは……」)
薄れ行く意識の中で喪作が横目でちらりと麻璃流に視線を送り、心のそこから後悔した様子で深い溜息を漏らすのだった。
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