此花・樹 & 神門・夜守

●ただそこにあるしあわせ

 夜の闇を煌々と照らすクリスマスイルミネーションを眺めながら、ふと思う。
 ただ季節しか感じなかったそれが。今は、何と特別なものに見える事か。
 そしてその理由が、夜守にはよく分かっていた。
「気持ちの入り様が違うと一段と綺麗に見えるもんだね」
 夜守の隣で光溢れる風景をじっと見つめる樹も、彼女と同じ気持ちであった。
 やはり、この日に見るイルミネーションが一番美しくて。
 何よりも、夜守と一緒であること。特別な時間、特別な風景を、最愛の人と共有するという幸せ。
 樹も夜守も、冷たく澄んだ冬空の下で。今の幸せをじわりと感じていた。

「ねぇ、キスしていい?」
 十分に美しいイルミネーションを堪能した後。ふと樹の口から出たそんな問いかけに。
「えっ……其れは……」
 夜守は思わず言葉に詰まってしまう。
 だがそんな夜守の戸惑いは、拒絶を意味するものでは決してなく。樹も、それが分かっていて。
 彼女の答えが返ってくる前に――その口は、甘いキスで塞がれた。
 樹は自分のキスを受け入れた後、頬を染める夜守を見つめ、ふっとその瞳を細める。
 普段の彼女も勿論可愛いが。今、目の前で照れている夜守も、本当に可愛い。
 いや、夜守の全部が可愛いし、綺麗だし……そして愛しいと。樹は改めて思う。
 それから溢れ出る今の気持ちを、そのまま彼女に告げた。
「好きだよ夜守。どれだけ好きって言っても足りないくらい、俺は君が好きだよ」
「ば、馬鹿だな、貴方は……」
 夜守は思わず俯いて彼から目を逸らし、そう憎まれ口を返したが。
 途端に早くなる胸の鼓動を感じながら。何故、自分は素直に返せないのだろうかと思う。
 ――私もきっと貴方と同じ様に思っている、と。
 樹は、こんなこと言ったり実行したら彼女は怒るかなと思いつつも。
 気持ちを抑えられず、夜守に再びこう訊いた。
「もう一回キスしていい?」
「調子に乗るなっ」
 樹の提案にそう答えて、胸にコツンと頭突きを見舞う夜守。
 だが、その様は。
 彼の大きな胸に身体を預けている以外の、何物にも見えなかったのだった。

 静かに煌くイルミネーションに彩られ、ほのかに頬を染めて。
 気恥ずかしさと、そして幸せを全身で感じながら。
 冬の夜空の下、身を寄せ合う恋人たちの唇が。
 再び……そっと、重なる。




イラストレーター名:瞑丸イヌチヨ