遠峰・真彦 & 真彦のモーラット

●僕らの素敵なクリスマス

「こっくりさん、こっくりさん……」
「もきゅきゅ♪ もきゅきゅ♪」
 薄っすらと蝋燭の明かりだけが照らす薄暗い部屋の中、真彦ともふもふ様が床の上に広げられた用紙の上でコックリさんに興じていた。
 一応、彼らのまわりにはクリスマスの飾りと思しきモノや、何となくケーキっぽいものも置かれているが、怪しげな雰囲気が漂っているせいか、どれもおどろおどろしい感じられ、まるで呪いの儀式を行っているのではないと錯覚してしまうほどである。
 だが、オカルトともふもふ様を敬愛する真彦にとってはこの上無い幸福であり、もふもふ様は何も解って居ない様子で無邪気にきゅぴきゅぴと鳴いており、一人と一匹にとっては幸せなクリスマス……らしい
 もちろん、他の人達から見ればそろそろ生贄が登場し、本格的な儀式が始まるのではないかと思いがちだが、彼らなりにクリスマスを祝う気持ちがあるらしく、それっぽいモノが現れる事はない。
「ウフフフフフ、楽しいですねぇ……もふもふ様」
 瞳をランランと輝かせながら、真彦が不気味な笑みを浮かべる。
 もふもふ様もそれに応えるようにして、『もきゅ〜♪』と鳴き声をあげて10円玉に手を伸ばす。
 それに合わせて蝋燭がユラユラと揺れ、真彦達以外にも誰かいるような雰囲気を、ほんのりと漂わせる。
「コックリさんもご一緒で、賑やかなクリスマスですねぇ……」
 心底楽しそうな様子で、真彦がもふもふ様と会話を交わす。
 もふもふも様も元気よく『きゅぴ〜♪』と答え、嬉しそうな表情を浮かべて尻尾を振った。
「僕は何て幸せ者なんでしょう……ヒヒ……ヒヒヒッ」
 自分なりに幸せを噛み締めながら、真彦が奇妙な笑い声を響かせる。
 それとは対照的にもふもふ様は『もきゅきゅ♪』と楽しそうに鳴き声を響かせ、純真無垢な瞳をきゅるるんとさせた。
 次の瞬間、一人と一匹の手の下で、十円玉がゆっくりと滑り出す。
 それはまるで意思をもっているかの如く、『め』『り』『い』『く』『り』『す』『ま』『す』の順番で文字を選び、何事もなかった様子でピタリと止まる。
「……おや? おかしいですね?」
 不思議そうに首を傾げる一人と一匹。
 無意識に指が動いただけなのか?
 それとも、何か特別な力が働いたのか?
 ……それだけは最後まで分からなかった。




イラストレーター名:瞑丸イヌチヨ