宇気比・真弓 & 浦雪・坤

●Sleepin' Beauty…?

(「う……、どうして来ないんやろ。特に妙な事は書いてないと思うんやけど……。」)
 心配そうな表情を浮かべながら、真弓が一人暮らしをしている坤の自宅前で、クリスマスケーキを抱えて彼女の帰りを待っていた。
 気がつけば、辺りは暗く電灯の明かりが煌々と輝いている。
 約束の時間は、とっくの昔に過ぎていた。
 不安な気持ちに駆られ、メールの内容を思い返してみる。
 内容に問題はない……はず。
(「だとしたら……何故? まさか、坤の身に何か……」)
 不吉な考えに至り、がたっと立ち上がる。
 そして、何処かへ走り出そうとするも、また元の場所へ戻ってきた。
(「けど、そうじゃなかったら……」)
 何かあれば、ここへ誰かが来るのではないだろうか。
 それに、行き違いになったら目も当てられない。
 そんな事を考えながら、真弓がやきもきとしていると、バイト帰りで疲れた・眠い・空腹の三拍子が揃った状態で、坤がふらふらと自分の家に帰ってきた。
「……って、お前。来る時はメールくらいしろ! 阿呆!」
 玄関前に座り込んでいた真弓に素で驚き、坤が不機嫌な表情を浮かべてツッコミを入れる。
「え? え! メール、届いとらんかったん!?」
 少しショックを受けながら、真弓が驚いた様子で確認する。
 メールの履歴を確認したが、彼女に届いている事は間違いない。
「あっ……」
 携帯電話のメールを確認し、坤がハッとした表情を浮かべた。
 途端に気まずい雰囲気がふたりを包む。
「まぁ、とりあえず、細かい事は抜きにして、家に……寄る?」
 坤の言葉に真弓が力強く頷いた。

(「……何だか緊張してきた」)
 心臓をバクバクとさせながら、真弓が彼女と並ぶようにして、赤い革のソファに腰掛ける。
 緊張のし過ぎて頭がクラクラとして、身動きを取る事が出来ない。
「あ……と、その前に。坤、メリークリスマス!」
「……ん、メリークリスマス」
 真弓から受け取ったケーキの箱を、坤はそっと開いた。

 部屋の外では、深々と雪が降っていた。
(「疲れた。……」)
 仕事の疲れか。
(「こんなに静かで、幸せだと感じるクリスマスは初めてだ」)
 それとも、ちょっぴり嬉しいサプライズか。
 静かな部屋の中、二人はソファーの上で、ささやかなひと時を過ごすのであった。




イラストレーター名:颯