●だいすきなひと
(「……一緒に過ごしたかったから、誘ってみたものの……。いつもよりどきどきする……。やっぱり、はるかとのクリスマスだからかな……」)
家族が不在だという事もあり、氷影がクリスマスの夜にはるかを呼んだ。
とりあえず、呼べば何とかなると思っていたが、必要以上に緊張してしまい、頭の中が真っ白になりかけている。
そんな時に、ふと窓を見ると、ポツポツと雪が……。
「なぁ、はるか。こっちこっち、はやく!」
興奮した様子ではるかの名前を呼び、氷影が彼女を窓まで引っ張った。
「あっ、雪が……」
氷影に腕を引っ張られてふらふらと窓に駆け寄り、はるかが何事かと思って夜空を見上げる。
空からはポツポツと雪が降っており、明日の朝までにはかなり積もっていそうな雰囲気だ。
(「これで雪だるまを作ったら、彼が喜んでくれるかな」)
そう思うだけで、はるかは幸せな気持ちに包まれていく。
氷影もそんなはるかの姿を見て、とても嬉しい気持ちになり、気がつくと思わず後ろから、はるかの事を抱きしめていた。
「え……あ、あの……氷影さん?」
突然、背中にぬくもりを感じ、はるかが驚いた様子で声を漏らす。
その途端に氷影が我に返ってハッとした表情を浮かべ、自分でもどうしたら良いのか分からなくなり、曇った窓ガラスに指で『すき』と文字を書く。
だが、照れているせいで、文字が歪んでしまい、少し読みづらくなっている。
それでも、はるかには言葉の意味が伝わったらしく、ぽーっと顔が赤くなった。
(「は、反則です。いきなりこんな……。す、好き……だなんて……」)
氷影と目を合わす事が出来なくなるほど恥ずかしい気持ちになり、はるかが同じように指で窓ガラスに『わたしもです』と返事を書く。
「大好きっ」
窓ガラスの返事が嬉しくて堪らなかったため、氷影がはるかをぎゅっと抱きしめる。
そして、氷影は幸せな気持ちに満たされながら、『これからは何度でも、口に出して言うからね』と彼女に約束するのであった。
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