本堂・茜 & 青神・祈赤

●手と手を繋いで

「……なんだか、信じられないな」
 ポツポツと降り出した雪を眺め、茜が何かを思い出したように呟いた。
 ……やけに胸がドキドキする。
 自分でも緊張している事くらい顔が真っ赤になっており、まともに祈赤の顔を見る事さえ出来ない。
 多分、赤面しているのだろう。
 恥ずかしさを誤魔化すため、ゆっくりと辺りを見回した。
 まわりにいるのは、カップルばかり。
 傍から見れば、茜達もその一組。
(「くっ……、しまった!」)
 そう思うと余計に恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
 視界の隅でイルミネーションがキラキラと輝いている。
 『まるで宝石箱のようだな』と茜は思った。
 途端に指輪の映像が脳裏を過ぎり、茜が慌てた様子で首を振る。
(「一体、何を考えているんだ、私は……」)
 自分でも理解する事が出来るほど、混乱している事が分かった。
 もちろん、その理由は……分かっている。
 ……傍らに祈赤が立っているからだ。
(「折角二人で歩いているのに……、こんな状態で良いんだろうか。……いや、色恋沙汰とは無縁と思っていた私が、こんな状態であることは十分に幸せか」)
 『何か気の利いた台詞を言わなければ……』と自分自身に言い聞かせてみたものの、余計な事ばかり考えてしまうので頭がマトモに働かない。
(「こ、こういう時は、何か言っておくべきか。は、恥ずかしいが、これはひょっとして、チャンスから知れない……。ここは勇気を振り絞って、何か言わねば……」)
「手、冷えないか」
 祈るような表情を浮かべ、茜が『察しろ』と祈赤に対して念を送る。
 だが、祈赤は小さく首を振り、『いや、大丈夫だ』と答えを返す。
(「そうじゃないだろうがっ!」)
 茜が心の中でツッコミを入れた。
「……て、手を繋がないかと聞いているんだ。遠回しに」
 『まったく、どこまで鈍感なんだ』と思いつつ、茜が強引に祈赤の手を掴む。
 祈赤は握られた手をボンヤリと見下ろし、しばらく感慨に浸っていた。
(「誰かと手を繋いで歩くのは、何年振りになるのか。それにしても、細く小さな指だ」)
 これからの人生で、人並みの幸福に触れることなど有り得ないと思っていた。
(「いつかこの手を、指を、そしてこの女を、愛おしいと感じる日が果たして来るのだろうか?」)
 そう自分自身に問いかける。
 ……答えは出ない。
 そこで茜がコホンと咳をする。
 風邪でも引いているのか、顔が真っ赤になっていた。
「……手、離すなよ」
 茜がギュッと手を握る。
(「まぁ、今考えても仕方がない。答えはそのうち勝手に出る。今はただ、この手を握っていよう」)
 そう思って祈赤も茜の手を握り返した。




イラストレーター名:秋月えいる