●クリスマスケーキだって芸術なのです!
お洒落で明るい雰囲気の綺麗なシステムキッチンには、ほんのり甘い香りが漂っている。
そのカウンターに置かれているのは、まだ飾りつけの終わっていない大きなクリスマスケーキと、程よい大きさにカットされたたくさんのフルーツ。
そして、フリルのあしらわれた可愛らしいエプロンを身につけて。
物凄く真剣な表情で大きなケーキを真っ直ぐ見据えている、魅鷺。
生クリームの絞り出し袋を握り締めた彼女は、懸命にクリスマスケーキをデコレートしていた。
他の事が目に入らないくらい、必死に作業に集中している彼女の姿。
カットフルーツやアラザンをひとつひとつケーキに飾っていきながら、シンプルなエプロンをつけた一太郎は、それを微笑ましげに見つめている。
単純で、ひとつのことに一生懸命。
そんな目の前の彼女は、彼にとって、からかい甲斐のある可愛い妹のような存在だ。
生クリームを慎重に搾り出している魅鷺の様子に瞳を細めた一太郎は思わず笑みを零す。
それから、ふと悪戯っぽい表情を宿して。
ニカッと笑い、彼女にこう声を掛けたのだった。
「魅鷺、顔に生クリーム付いてんぞ?」
「え? え?」
その声に、慌ててケーキから顔を上げる魅鷺。
おろおろしながら自分の顔をペタペタと触っているそんな素直な反応に、一太郎は。
「ふははは、うっそだよ」
してやったりと、満面の笑顔を彼女へと向けた。
逆に魅鷺は一瞬きょとんとした後。
「え!? ……う〜、一太郎サマのばかぁ……」
からかわれたと分かり、カアッと顔を真っ赤にさせて。恥ずかしそうに俯き、そう呟く。
だが、一太郎のことを何だかんだ言いながらも尊敬している魅鷺は。
いつもこんな風に彼にからかわれるたびに、強く言い返せないでいたのだった。
兄妹のように仲の良い、ふたりは。
楽しそうな会話と笑顔の絶えないシステムキッチンで、賑やかに共同作業を進めながら。
飾り気のなかった大きなクリスマスケーキを、ふたりだけの芸術作品に仕上げていった。
生クリームと、たくさんのフルーツと。
何よりも、ほのぼのとした、ふたりだけのこんな時間。
それもまた――ある意味甘い、クリスマスのいい思い出となったのだった。
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