●二人の進展。 友達から恋人へ
クリスマスの夜。窓の外から、まばゆいイルミネーションの光が射す薄暗い室内。
しんと、静まり返ったその場所に、2人はいた。
「忍さん」
ふと、詩怨は忍の背中にもたれかかった。自分の体重を預けるように、背後から抱きつくかのように。途端、生々しい柔らかさを感じて、忍は驚きの声を発する。
「……詩怨。背中に何か当たってるんだが」
「……当ててるんですよ」
問い返す声は、うわずって余裕がない。
しどろもどろに慌てる忍。彼の方が年上のはずなのに……詩怨は、ほんの少しだけ、不機嫌そうな口調で言う。
微かな、沈黙。
胸の鼓動が、震える吐息が、伝わりそうなくらい近くて……静か。
「……俺も男だし、どうなっても知らんぞ?」
そこまで。
やれやれと、小さく息を吐き出して、そのつもりで言ったのに。
「いいですよ。……忍さんなら」
返って来たのは、その予想外の短い言葉。
触れた場所が、熱を持つくらい、あつくて。
……溶けてしまいそう、なんて甘いものじゃない。壊れてしまいそうなくらい、胸が早鐘を打つ。
「いいんだな?」
「……うん」
背中にいる詩怨を振り返って。忍は小さく頷いた彼女の体を抱きすくめた。
「ふぇ……」
思わず出てきた声が、自分自身でとても恥ずかしくて、詩怨の顔が真っ赤に染まる。
だって、だって、こんなに――。
「……好きだよ、詩怨」
「わ……私も、です」
囁く声は、とても甘く。まるでそれに酔うかのように、あるいは熱にうなされるかのように……詩怨は潤んだ瞳で忍を見上げた。
でもこれは、紛れもなく自分の意思。
自分が求めたからこそ……そして、相手もまた、望んでくれたからこそ。
忍は、詩怨の想いが込められた視線を静かに受け止めて。伸ばした手のひらでそっと、部屋の電気を消した。
かすかな音と共に訪れる闇。
遠くから、わずかに伸びるイルミネーションの光だけが、彼らを照らす。
2つの影は今、重なり合って1つになっていた。
| |