●穏やかな時間の中で……〜初めてのクリスマス〜
まるで夜空の星が舞い降りたような錯覚を受けるほど、美しいイルミネーションに彩られた街中を歩く、ふたり……。
「やっぱりクリスマスと言ったら、イルミネーションだよねっ!」
満面の笑みを浮かべながら、澪がぱたぱたと走っていく。
怜里が好きなところに連れて行ってくれると言っていたので、思わずついて来てしまったようである
「なぁ……、楽しいか?」
彼女に視線を送りながら、怜里が何気なくボソリと呟いた。
よくよく考えてみれば、彼女と出掛けるのは、これが初めて……。
一体、どうしていいのか分からなかったが、とにかく楽しんでもらいたいと思う気持ちが強かったので、とりあえず彼女の行きたいところについて行く。
「うんっ、すっごく楽しいよっ」
力強く頷きながら、澪が躊躇う事無く答えを返す。
怜里と一緒にいるだけでも、何だか楽しくなってくるので、その言葉にまったく嘘は無い。
「そうか、なら良かったよ」
どこかホッとした表情を浮かべ、怜里が優しく彼女に微笑んだ。
(「こいつの事が妙に気になるのは……どうしてだろうな。まさか、恋……? いや、そんなわけない……よな」)
苦笑いを浮かべながら、怜里が澪に視線を送る。
(「でも、怜里は楽しんでいるかな? あんまり顔に出してくれないから、よくわかんないんだけど……。何となく、穏やかな顔をしているから大丈夫かなっ」)
怜里の顔を眺め、澪がニコリと笑う。
気がつくと、まわりにいるのは、カップルばかり。
(「……恋人がいるってどんな気分なのかなぁ? ……あ、ひょっとして私たちも今そう見えてたりして。まっ、今はそんなことはどっちでもいっか! せっかく来たんだし、二人で楽しもうっと♪」)
そんな事を考えながら、澪がふたりで仲良く街中を歩いていく。
(「そう言えばプレゼントを用意していたんだよな。ありきたりなシルバークロスのチョーカーだが……、気に入ってくれると良いんだが……」)
彼女に渡すプレゼントを握り締め、怜里がゆっくりと歩き出す。
まだまだ夜は長いのだから、必ずチャンスがあるはずだ。
それよりもいまはふたりでいられる時間を大切にしようと思った。
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