●寒い夜も君となら幸せ時間
吐く息さえ凍るように冷えた空気の中。
クリスマスのイルミネーションに彩られた並木道を、ふたりはゆっくりと歩いていた。
ふたりの間を冷たい風が通り過ぎていく。
「……寒っ」
兇がぶるりと体を震わせた。
「……何だか寒そうだな。あったかくしてやろうか?」
兇が寒そうにしている事に気づき、瑞鳳が自分の首に巻いていた、赤いもこもことしたマフラーを彼の首に掛ける。
このマフラーは兇が以前、瑞鳳にプレゼントしたもの。
とても暖かく、身体だけでなく、心まで温かくしてくれる。
その反面、瑞鳳はマフラーを失った事で、突き刺すような寒さが全身を包む。
(「さ、寒い……」)。
だからと言って、その言葉を口にするわけにはいかなかった。
そんな事を口にすれば、再び兇の身体が冷えてしまう。
それだけは何としても避けたかった。
とりあえず……、もうしばらくの我慢。
「マフラー貸してくれたお礼に姐さんもあったかくしてあげる」
その気持ちを察したのか、兇が後ろから彼女を抱きしめた。
次の瞬間……。
胸がドキッと高鳴った。
途端に恥ずかしい気持ちが、彼女の心を支配する。
「な、何すんだー!」
思わず口から出た言葉。
最初は瑞鳳も顔を真っ赤にして、じたばたと暴れていたが、ようやく観念したのか、だんだん大人しくなっていく。
「……あったかい」
瑞鳳がぽつりと呟いた。
本音を言えば、暖かい。
それが本当に暖かくなったせいなのか、恥ずかしさのせいなのか、よく分からないが……。
とにかく、身体が暖かくなってきた。
「姐さんも暖かい」
そんな彼女を愛しく思って、小さく頭を撫でながら、兇が優しく耳元で呟く。
例えどんな寒い夜でも、こうやって一緒にいれば、それだけで暖かく幸せな夜を過ごす事が出来る。
まだ、特別な関係ではなかった、去年には感じる事が出来なかった幸せを、いまはじんわりと感じる事が出来た。
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