●俺の根性なしー!!
ふと、世津の瞳にある人影が映った。
北斗である。
実はここだけの話。北斗は、世津の憧れの人だったりする。
しかも都合の良いことに世津の手には、先ほど買ったばかりの美味しいジュースなんてのもあった。
「ジュースとか持ってきたけど。いるならやんぞ?」
そう世津はそっけなく声をかけてみた。
「お、悪ィな世津。もらうぜ」
その北斗の言葉を内心、嬉しく思いながら、世津はそっと、ジュースを手渡した。
北斗の手と世津の手が触れる。
遠くで誰かが実況しているが、今の世津の耳には届かない。
いや、正確に言うと北斗のこと以外、目に入ってないし、耳にも入っていない。
かなり……緊張している?
「うまいか? 俺のジュース、うまいのか?」
隣でジュースを飲んでいる北斗に思わず尋ねるくらい、実は不安になっていたりする。
そのただならぬ様子に気づき、北斗は思わず、眉をひそめた。
「な、なぁ。もっと和やかにいこうぜ」
ジュースに口を外して、相手を落ち着かせるかのようにそう声をかける。
(「も、もしかして、気づかれた!?」)
世津はあたふたとその場を取り繕うように。
「そ、そういや……初めて北斗さん見たの、入学ん時だったなー」
「へぇ、そりゃ光栄だ」
世津の言葉に北斗は嬉しそうにそう応える。
と、二人の目と目があった。
…………。
…………………。
見つめ合うような、そんな時間が過ぎてゆく。
傍から見れば、恋人達が目と目を合わせて、運命を感じるような、そんなひと時。
「やっぱ言えねー!! 憧れてましただなんてー!?」
世津はそう言い放ち、脱兎のごとく走り去ってゆく。
「どこ行くんだ、世津!?」
呼び止める北斗の声は、世津には届かなかったようだ。
世津は、ばびゅーんとその場を立ち去り、残されたのは北斗、ただ一人。
世津の憧れの人との初会話は、こうして終わりを告げたのであった。
| |