●兄妹の聖夜
マンションの一室にはツリーが飾られ、すっかりクリスマスムード。
窓が薄く曇っているのは、寒い外に比べて中がとても暖かいからだ。
部屋の主たちは、食事を終えてケーキを食べようとしているところだった。
さて、苺の乗ったケーキをどう切ろうか。それに、砂糖菓子のサンタさんはどっちに乗せよう?
空那は、2人前の小さなホールケーキを前にそんなことを考えている。
その肩を、ちょんちょん、と朧が叩いた。
「メリークリスマス♪」
朧が差し出したのは、リボンのかかった可愛らしい、プレゼントの包み。
「へ、これウチに?」
受け取りながら、空那は驚いた表情で目を瞬く。今の今まで、クリスマスプレゼントがあるなんて、一言も聞いていない!
「……今開けてええのん?」
「いいよ♪」
朧の笑顔に促されて、空那はリボンをほどいた。そっと包み紙を開き、中から出てきたものを見て――。
「……! わっわ、すごい!」
空那は目を丸くし、それからパっと顔を輝かせた。
「これホンマにウチに?」
朧に、空那はキラキラした笑顔を向ける。
想像していた以上のその反応に、微笑んで、朧は頷いた。
一瞬、空那の表情がくしゃりと歪んだ。泣きそうなときの顔に似ていたけれど、もちろん違う。人は、嬉しくて嬉しくて仕方がなくて笑う時にも、そんな顔になる。
キラキラと、ツリーの星に負けないような笑顔で、空那は朧の胸に飛びついた。
「〜〜っ、義兄さん大好き!」
飛び込んできた空那を朧が受け止めるよりも先に、空那のほうがぎゅうっと抱きつく。
その行動に今度は朧のほうが目を丸くし、そして次に少し赤面した。
抱きついてくる腕の力は心地よく強く、伝わる体温が暖かく。
「私も……、大好きだよ」
と、朧は空那の頭を撫でた。
嬉しそうに、空那の目が細められる。
「ケーキを食べようか、アキ」
静かで幸せな時間の後、朧が口を開いた。
「うん。……ねえ、義兄さんは、苺にする? サンタさんにする?」
ナイフを取りながら言う空那に、朧が笑う。ケーキの上には苺が3つとサンタさんが1人。確かに、どう分けるか悩ましい。
どっちでもいいよと笑いながら、朧はお茶をいれた。
暖かな湯気と、良い香りが、兄妹のすごす部屋に満ちていく。
曇った窓ガラスの外では、ちらちらと白い雪が降り始めていた。
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