白石・ゆい & 小橋・照彦

●爪きり>>>>彼氏

 恋人と過ごす初めてのクリスマスを、いかに楽しくロマンティックに演出するか。
 ずっと前から綿密なプランを練りまくっていた照彦は、その日、意気揚々と恋人であるゆいの部屋を訪れた。
「ゆいちゃ〜ん、メリークリスマス♪」
 しかし扉の先で待っていたのは、あちこちに脱ぎ捨てられた洗濯物と、ベッドの上であられもない姿のまま爪を切る恋人の姿。
 けれど照彦は、そんなことなど微塵も気にせず、満面の笑みを浮かべたままでゆいの部屋へ上がり込むと、ワクワクした様子で早速今日のデートプランを話しはじめた。

「ねねゆいちゃん、一緒にお出かけしよっ♪」
「へー、すごいですねえ」
 ぱちん。
「新しくできたスィーツのお店、ゆいちゃん知ってる?」
「それは良かったですねえ」
 ぷちん。
「俺、遊園地のチケット持ってるんだ〜♪」
「あー、おいしそうですねえ」
 ぱちん。
「観たい映画もあるんだよね」
「ふーん……」
 ぱっちん……。

 身振り手振りを交えてみたり、チケットを取り出したりと、実に楽しげに話す照彦。
 だが当のゆいはといえば、相も変わらず怠そうで、彼の話なんざ聞いちゃいない。とりあえず何か話しかけられているようだからと、適当に相槌を打ってはいるが、その相槌すらも噛み合っていない。
 それでも照彦に、諦める気配はまったくない。というか、ワクワクしすぎているためか、適当にあしらわれている自覚が殆ど無い。
「ねえゆいちゃん、聞いてる?」
「聞いていますよぉ」
 とか言いつつも、派手にあぐらを組み直し、今度は左足の爪切り開始。
(「あ、こんなに伸びてるぅー。危ない危ない」)
 クリスマスなんてどこへ行っても人混みだらけで面倒臭いと、あからさまな表情のまま、とりあえずの生返事だけを繰り返す。

「それから夜景が綺麗なレストラン行って、それでそれでぇ……」
「はいはい、そおですねえ」
 ぱちん。

 彼の素敵な空回りは、もう暫く続きそうだ。




イラストレーター名:Hisasi