●『聖夜のひととき』
クリスマスの夜、絢香と神威は噴水庭園の前にいた。
設置されていたベンチに、2人で並んで腰かけて。ふと、背後を見上げれば、きらきらとイルミネーションで装飾された、大きなクリスマスツリーが鎮座する。
「綺麗だな」
「うん」
ふたりは噴水越しにツリーを楽しむ。視界を覆い尽くす光の洪水は彼女達を魅了して……やがて、どちらからともなく視線を下ろした2人は、そのまま、相手の顔を見つめる。
「……えっと、これっ! 姉さまのために用意したんです♪」
「ありがとう……私からは、これを」
互いに取り出したのは、相手へ贈るプレゼント。綺麗にラッピングされた袋を、お互いに交換して、早速その中身を開けてみる。
絢香が貰った袋の中からは、赤い毛糸の手編みの手袋。
神威が貰った袋の中からは、ふわふわとしたボンボンが付いた、白い手編みのニット帽。
どちらも相手の事を想いながら、今日この日の為に、一生懸命編んだ物だ。
「うっと、どうですか?」
「ふふ、可愛いな。……どうかな?」
「よく似合いますよ姉さま」
早速その手袋をつけてみた絢香に、神威は微笑んで帽子を被ってみる。それは絢香の想像以上に、とてもとてもよく似合っていて、本当にすごく素敵だった。
大切な人からのプレゼントが嬉しくて。
……大切な人が、自分のプレゼントを喜んでくれた事が、とてもとても嬉しくて。
2人は互いに見つめあいながら、極上の笑顔を浮かべる。
「今夜は冷え込むって予報だったけど、でも、これなら暖かそうだな」
「……大丈夫ですよ。姉さまの指は、私が温めてあげますから♪」
神威の言葉を聞いて、「はい♪」と絢香は神威の両手を握り締めた。そのまま、ぎゅーっと指先を絡める。
ふわふわした手袋越しに伝わってくるのは、かけがえのない温もり。
――大丈夫。
だって、どれだけ寒い夜だって、隣には大切なあなたがいるから。
だからもうちょっとだけ。クリスマス今宵もう少しだけ……一緒に。
そう2人はもう1度、きらきらのツリーを見上げた。
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