●イヴ限定
クリスマス、それは恋愛にあまり興味がなく過ごしてきた者には、なんとなく寂しい日なのかもしれない。
寂しい者同士、一日恋人同士になってクリスマスを楽しもうということになった真綾と紅葉は、待ち合わせていたツリーの下で落ち合った。
「これで別に寂しい時期じゃなくなった」
パーティに参加しようと紅葉と並んで歩き出した真綾が淡々と言う。紅葉はマフラーに覆われた首を傾げる。
「そもそもクリスマスに女同士というのが間違いだって気付くべきだと思うんだぜー」
猫マフラーをふかふかしながら歩く紅葉と真綾は、同じ銀誓館学園の女子冬服を着ている事もあって、少し浮いているような気もしなくはない。仲のよい姉妹のように見えるだろうかと紅葉は思う。
「銀誓館学園をみてると、あまり気にならないけど」
いろんな意味でフリーダムな学園を思い起こし、紅葉もそれもそうかと頷く。
「でも、恋人同士っていっても何すればいいんだぜ?」
学園以外では剣道とゴースト狩りの日々を送っていて、恋愛に興味が無かった紅葉は戸惑ったように言う。真綾もまきまきたれ猫を撫でながら考え込むと、思い付いたものを言ってみる。
「一緒に遊びに行ったり、買い物行ったり、ご飯食べたりとか?」
「結社の仲間でいつもしてることと変わらない気がするぜー」
思い起こせば確かに皆と行ったものばかりだ。皆とつくった想い出が自分の思った以上に多いことに少し驚く。自分でも意外な程に学園生活を楽しんでいる事に気付き、真綾はうっすらと笑みを浮かべる。そういえば……。
「ああ、もう一つあった」
くるりと振り返ると真綾は少しつま先立ちになる。
「それは一体……っ!?」
そのまま真綾は紅葉の首に腕を絡ませ、顔を引き寄せる。予想外の行動に固まる紅葉の顔に、真綾が頬を寄せる。そのまま、唇が触れあいそうになるが。
「ストップ!」
と、キスしようとするところで真綾は行動をやめる。驚いた顔の紅葉へ、好きだったら取るだろう行動をしようとしただけ、と真綾は悪戯っぽく笑う。
「さあクリスマスを楽しもう、12時の鐘がなるまで」
二人は手を結ぶと街の喧噪の中へ駆け出していった。
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