●− 楔 −
二人で初めてのクリスマス。パーティを楽しんだ二人は、自宅である洋館に帰ってきていた。
人ごみが苦手な枢が誘ってくれたクリスマスイベントが嬉しくて、部屋に戻って来てもその事ばかり一視は話す。疲れていたのかベッドに横になった枢の隣に座り、夢中で話し続けている。
雪の降るツリーの下でのうれしさや、マフラーの暖かさ。話したいことは沢山あって、長い間喋っていた一視は、最初は相づちを打ってくれていた枢の反応が、いつの間にか無くなっていた事に気付いた。
「……枢?」
自分が夢中になりすぎて呆れてるのかと振り返れば、彼女は小さな寝息を立てていた。
あまり外には出たくないけれど、それでもクリスマスを楽しみたくて、枢は結社の皆と色々企画したり、一視と一緒にイベントに参加したり……部屋に二人で戻ったのまでは覚えていたが、枢はそのまま眠りに落ちてしまったのだ。
「疲れたのも、無理ないか」
無防備な枢の寝顔を見て、幸せそうに一視は笑う。風邪を引かないように枢にそっと羽布団をかける。間近で改めて恋人の寝顔を見ていると、一視は小さな衝動に襲われて、吸い込まれるように顔を近づける。唇が触れあいそうな距離で、眠っていた枢の瞳が突然開いた。
ベットでうとうとしてて、なんとなく目を開けたら一視の顔があった。それもかなり近距離。赤とオレンジの瞳が一瞬、見つめ合う。
「ご、ごめん」
びっくりしたように慌てて顔を離す一視の様子に、枢の寝ぼけていた意識が一気に覚醒する。
「……ど、どうしたの?」
赤面する彼に質問すると、要領の得ない答えが帰ってくる。言い訳を聞いているうちになんとなく理解出来て、身を起こして一視の服を引っ張る。
「……ちゃんと、して欲しい」
多分、顔が沸騰しそうに赤くなってる、かな。
一視は自分でも情けなくなるような言い訳を繰り返していたが、枢の言葉でそれも止まる。
「……枢、好きだぞ」
改めて枢を見つめて、そっと口付けを交わす。
一視と共にある幸せを、噛み締めるように。
この幸福が続くように、枢と共に歩めるように。
一視と喜びを……。
幾つも重ねるように思いを唇に乗せて……掴んだ手を、枢を離さないように。
「……好きだよ、一視……」
貴方が、枢が、一番好きだと言ってくれた笑顔で微笑んだ。
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