妙円園・理在 & 葛限・木賊

●。・:雪降る月夜:・。

「今日の木賊怖かったぁ……」
「あははっ、だってぇ苺欲しぃかったんだもん」
 げそっと疲れたように言う理在にあまおうのショートケーキ美味しかったと木賊が微笑んだ。結社でみんなと騒いだりパーティでドッチボールしたりさんざんクリスマスを楽しんだ二人だったが、このまま別れるのも寂しい。クリスマスが終わるまでにはまだ時間がある。
「ハシャいだし、どっか静かな場所でくつろぐか?」
 理在の提案に嬉しそうに木賊は恋人の手を取った。
「へぇ? じゃぁ、ウッチの家行くぅ?」
「いや、雪降りそうだし……景色見れる場所、行くぞー」
「うんっ!」
 無邪気な笑顔で笑う木賊と並んで歩く理在の鼻をかすめるようにクリアな芳香がふわりと舞う。木賊にやっぱりこの香水は合うなと理在は少し嬉しくなる。
 理在が木賊を連れてきたのは学校の屋上だった。誰もいない静かな学校は何時もとは違う清廉な空気が漂っていた。理在は軽々と金網を乗り越えると金網の上の木賊に手をさしのべる。手を借りてふわりと降りた木賊と理在は遠くに街の灯りが見える屋上の縁に座る。二人並んで屋上の隅に座る恋人達を蜘蛛の合間から冴え冴えとした月が照らす。
 少し寒くて首をすくめる木賊に密着する様に身を寄せる。理在の体温がじんわりと伝わってくる。それでも少し寒そうな恋人の編んでくれたマフラーを半分ほどくと、そっと木賊の首に巻き付ける。木賊の力作の長いマフラーだが二人でつけるとぴったりのサイズで、木賊は顔を肩に預けるようにもたれ掛かる。
 頬を寄せ合い今日の想い出を話す木賊がふと空を見上げる。
「りーあ!! 雪ぃ……!」
「……おぉっ、降ってきたなぁ」
 寒くなるはずだと呟くと理在は恋人の肩を抱きよせる。片手でマフラーのポンポンを触りながらもう片方の手で木賊は恋人の空いている手をぎゅぅっと握る。二人で声も無く空を見上げる。広い世界に自分たち二人しかいない気がして、幸せそうな二人にそっと雪が降りそそぐ。
 ふと隣を見れば安心したような、幸せそうな柔らかい表情の恋人が手を握っていてくれる。
「なぁ、木賊」
 自分を笑顔で見る恋人が愛しくてたまらなくて、そっと顔を近付ける。木賊の赤く染まった眼が見開かれて……。
「ぅおっ」
 とっさに木賊が手で理在をガードしてしまう。
「…………」
「…………」
 硬直する二人の間に何とも言えないちょっと気まずい時間が流れる。理在は一つ溜息をつくと、木賊の顔を両手で固定して額に軽く口付けをする。
「今日はこれで勘弁してやらぁ」
 不敵に笑ってみせる理在の顔が見ていられなくて、赤くなった顔を見られたくなくて、うつむく木賊はすねるように呟く。
「……バカぁ……」
「馬鹿で結構」
 木賊の髪を梳きながら理在も幸せそうに呟いた。
 ラブラブな夜は、まだ終わりそうにもなかった。




イラストレーター名:Hisasi