凪原・乃依 & 神代・有希

●揺れる想い ――近くて遠い距離――

 折角のクリスマス。
 いつもよりも少しだけお洒落して、乃依と有希はいつもより少し遠い場所で、女の子同士のクリスマスデートを楽しんできた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
 もう帰らなければならない時間。
 夜遅いせいか、二人がいる車両に他の乗車客はいない。
 最終電車に揺られて、二人は今日できたばかりの思い出を話し合っていた。

「あのコースターは作り込みが甘かったと思わない? だけどあのホラーハウスはなかなか良い仕事していたよね」
 アトラクションについて語る有希。なかなか手厳しいその意見に相槌を打ちながら乃依は笑う。聞いていると、楽しませてあげられたのかどうか、いまいち自信が持てないけれど、でも、今こうやって話している有希の姿そのものは楽しそうだった。
「……あ」
 何気なく有希が、窓の外へと視線を向けると、吐息がこぼれたように小さな感嘆の言葉を口にした。
 電車の窓の外に広がるのは、真っ暗な世界に浮かび上がる街の灯り。
 それは普段見るものと何も変わらないはずなのに、とても綺麗で心を奪われたように窓の外を眺めていた。
 ひどく何かに感動したかのようなその様子に乃依が、有希の横顔を見つめる。
 それはとてもあどけなくて、綺麗で、可愛くて……。思わずどきりとしてしまった。

 拭いきれない過去。
 世界に投げ出されて、どうしようもない自分にとって、かつて少しの間とはいえ交流を持っていた間柄の有希は、一時頼るのに丁度よい存在だった。
 迷惑かもしれないと思ったりもしたが、押しかけて厚意に甘えるだけだった。
 ずっとそうだと思っていた。
 それが何時からか、失いたくない大切な存在になっていた。
 自分が穢れてしまっているのは分かっている。だから人並みの幸せが送れるとも思っていない。
 けれども見てるだけで幸せ……なのにそれだけでは嫌。
 離れたくない、自分もいる。
 胸の奥がチリチリと痛い。
 切ないのに温かい。
 こんな不思議な気持ち。
 今、窓の外を眺めている彼女は、自分がこんな気持ちを抱えているのを知ってるのだろうか。
 戸惑うものの乃依から自然とこぼれる笑み。

 有希は窓の外を……。
 乃依は窓の外を眺める有希の横顔を見つめ続けていた。




イラストレーター名:Hisasi