芦夜・恋月 & 四神・巽

●DOKIDOKIが止まらない(結構別の意味でも

 12月24日。今日は楽しいクリスマス。
 でも、今夜も恋月の過ごし方はいつもと一緒。弁当屋【樹雨の虹】で、明日のお弁当の仕込みを進めるだけ。
 共に過ごす恋人?
(「そんなもの……この18年間、いた試しがないよ……しくしく」)
 よよよよよ、と袖を涙で濡らすような気分を味わいつつも、弁当の下ごしらえは順調に進む。言ってみれば、今の恋月は仕事が恋人。たまにはこんな夜だっていいじゃないか。……たとえ毎年、いや毎日そうだったとしても。
「……はぁ」
「オィーッス。恋月ー、差し入れ持ってきたでー」
 それでもちょっぴり切なくて、小さく溜息をついたその時、現れたのは同じ弁当屋のメンバーにして友人の巽だった。
「おー。サンクスなのですよ、巽さん。いやー、みんな夜になって出かけちゃって、寂しくて寂しくて」
「お前ぐらいやもんな。そう言うの」
 有難く差し入れを受け取って、言葉を交わしながらも仕込みを続ける恋月の姿に、じゃあ俺も手伝うかなと巽はフライパンを取る。
「ん。それは助かる。じゃあ、そのウインナー頼んでいい? もう包丁は入れてあるから」
「おう」
 それは真っ赤なウインナー。足の形に包丁を入れて、タコさん型に整えられた、お弁当の定番メニュー。油を引いて、フライパンを熱して。用意されたタコさん達を入れて。
 鼻歌交じりに、器用にフライパンを振る巽だったが、少しだけ手元が狂って、タコさんをフライパンから落としそうになったその時、思わず身を乗り出して……。
「のわ!?」
「きゃ……!」
 なんとかタコさんはキャッチしたものの、肝心な自分がバランスを崩して。隣の恋月まで巻き込んで倒れこむ。

 どんがらがっしゃーん!

「あいたたた……」
 いろいろな道具と一緒に床に転がった恋月は、頭を打って遠ざかりかけた意識を取り戻して目を開けた。背中には冷たい床の感触。すぐ間近、自分の上には辰巳の顔があって、それから……。
「な……なっ……なっ……!?」
 ようやく気付いた。何か違和感があると思っていたのだ。その正体……自分の胸を思いっきり掴んでる手があることに! しかもふたつ! 両方!
「あ、ち、違うで! 恋月。これはその、違うで!」
 それは巽にとって不可抗力といえた。とりあえず、火傷しないようフライパンを放り投げて、かわりにそれ以上フォローができなくて……事故なのだ。本当に何の悪気も無く事故なのだこれは。
「……たまには、怒るよ?」
「というかすでに怒ってらっしゃるーーーーっ!」
 だが恋月はにこやかに、そばに転がっていたフライパンを持ち上げて……。

 盛大な打撲音が響き渡った。

「ったく……」
 倒れこんだ巽を前に小さく溜息。
 でも。
「……まぁ、こういう騒々しいのが私のクリスマス、か。うん」
 そっと胸を押さえながらそう呟いて、恋月はくすっと笑うのだった。




イラストレーター名:Hisasi