●せめて今だけは……
クリスマスイブの夜。
学園でのクリスマスパーティーも終盤。そろそろ帰ろうかと思っていたレイラを京が呼び止める。
「途中まで一緒に帰りませんか?」
「えぇ」
京からの誘いに快く頷くと、レイラは京と並んで歩き出す。
午後から降り始めた雪は、薄らと積もっていた。
二人並んで、まだ足跡のついていない雪の上の歩いていく。
交わす会話は今日のパーティーのこと。
普段の学校生活のこと。
他愛もない会話だけど、少女らしい楽しげな声を上げる。
ひらりとレイラがしている赤いマフラーの裾が、風で翻った。
それはひとりでするには少し長いマフラー。
それを見ていた京が何かを思いついた。
そっと、マフラーの端っこを掴むと、そのまま自分の首に巻き始める。
……くるくるくる。
そうして京がレイラに抱きつく。
「わわわ、どうしたんですか京!?」
「今だけは、こうしていていいですか?」
「もぅ……」
京が抱きついてきて、驚きの声を上げるレイラだったが、京の言葉を聞くと、抱きつかれたことによって、密着した体やこの雰囲気に照れるけれども、京に従う。
レイラが嫌だといって振り払わずに、自分を受け入れてくれている事が嬉しい。
けど自分達の想いに違いがあるのも知っている。
京はレイラの事を恋愛として「好き」だけど、レイラは京の事を親友として「好き」。
京は一度告白をしたけど、その想いは通じなかった。
レイラは同性だからという理由で、拒まれたわけではない。だから今もこうして友達どうしてとして、一緒にいて、一緒の時間を過ごすことができる。だけれども、色んな想いがごっちゃになって、レイラを見る京の笑顔はほんの少しだけ切な気になってしまう。
メリークリスマス。
楽しいクリスマスイブは、そろそろ終わろうとしていた。
| |