葦若・紗津希 & 白銀・翔弥

●遊び疲れて

 深夜、時計が12時を回り、それから少し過ぎた頃。
 静まり返った部屋の中、2人の吐息だけが繰り返される。

 12月24日、クリスマスの夜。良い子の枕元にサンタクロースが訪れるその夜は、恋人達にとって大切な、かけがえのない聖なる夜。
 それは、紗津希と翔弥にとっても同じだった。
 ふたり体を寄り添わせて過ごす時間は、かけがえの無いもの。世界を覆う夜の深い闇も、ふたりにとっては何の障害にもなりえない。
「……紗津希」
「うん……♪」
 ぎゅっと抱きついた体を抱きしめ返して、翔弥が自分の名を呼ぶのがくすぐったい。
 大好き、と心の奥底から無限に湧き上がる気持ちを口にして、大切な人をいっぱい抱きしめる。
 大切な人だから、もっとぎゅっとくっついて、ひとつになるくらい近付きたくて……そんな紗津希を、翔弥は優しく抱きしめる。
 いつもは紗津希の方が積極的だけど、でも、今は。やっぱり彼氏にリードして貰いたいなと願う乙女心に応えるように、そっと翔弥は紗津希に触れる。ほんの少しだけ恥ずかしそうに。でも、何よりも大切な人だから……本当に、愛しそうに。

 触れた場所から伝わる、相手のぬくもり。
 体にかかる吐息。
 それは、たまらなく愛しくて……しあわせ、な気持ちで、胸がいっぱいになる。

 だから今、こんなに穏やかな顔で、眠りにつけるのかもしれない。

 大切な日だから、本当はもっとずっと起きていたかったけど、どうしても疲労感には勝てなくて。
 いつしか幸せな眠りについていた紗津希を抱きしめたまま、翔弥はそっと微笑む。
 いつもは、ひとりで眠るだけのベッドも、ふたりで過ごせば全く別の場所のよう。狭さなんて感じない。反対に、体を寄り添わせる感触が心地良い。

 いつまでも、いつまでも。彼女をずっと護っていけるように。
 ――いや、護ってみせるから。

 幸せそうな寝顔も、いつもの明るい笑顔も、ちょっと頬を膨らませた姿も何もかも。大切な人の全てを護ってみせると、そう決意を新たにして。
 翔弥もまた目を閉じると、いつしか眠りに落ちていた。

 部屋に響くのは、ふたりが穏やかに繰り返す寝息だけ。
 ふたりだけの聖なる夜は、静かに、ゆっくりと過ぎていった。




イラストレーター名:Hisasi