添嶋・喜兵衛 & 芦屋・紡実

●その手の温もり

 楽しかった学園でのクリスマスパーティーを終えて、並んで帰り道へ向かう喜兵衛と紡実。
 キラキラのイルミネーションの街並みを歩いていく。

 昨年はクラスメイトで同じ結社だったひと。
 それが今年は恋人として、自分の隣を歩いている。
 隣を歩いている紡実を盗み見る喜兵衛。
 紡実も特別な想いを抱く人と、一緒にクリスマスをすごせるのがとても嬉しくて幸せ。
 純粋に喜兵衛の隣にいられることが嬉しい。自分では気が付かないけど、いつもよりもふわふわした表情になっているのは何となく分かる。頬が自然と緩んでしまうから。
 紡実の柔らかい表情の横顔。
 ただこれだけでも幸せだと感じるのに、もっともっとと、彼女を感じたくて、物足りなくなってしまう。
 今日はクリスマス。特別な日。そう、喜兵衛は自分に言い聞かせて、手をそっと動かす。

 ただこうやって並んで歩けるだけで、幸せだと思っていた紡実の指先に触れる優しく温かい感触。
 一瞬何が起こったのかわからなくて、彼女は彼の方を見上げた。
 それからゆっくりと喜兵衛に取られ、繋がった手を見つめる。
 何度か交互に見返して、徐々に理解していく。
 彼が手を繋いでくれたことが嬉しくて、嬉しそうな笑顔を彼に向けて、紡実からも手を握りかえす。
 手を握り返すと共に、喜兵衛に返す笑顔は、一番良いもの。
 飛び切りの笑顔を返して、手を握り返してくれる彼女がとても可愛い。
 握り返してくれた彼女の手は、自分よりも小さくて、自分の掌にすっぽりと入っていそう。
 しっかりと自分の手を握ってくれる喜兵衛の手は大きくて温かい。少しくすぐったいけど、とても満ち足りて、幸せというものを深く感じてしまう。
 一緒にいてくれて、自分の事を好きになってくれて。本当にありがとうという意味を込めて、紡実が喜兵衛を見上げて微笑みかける。
「あのね……。大好き」
 彼女の言葉に、喜兵衛はよりしっかりと彼女の手を握る。
 するとまた紡実が手を握り返してきて、笑顔を返してきてくれる。
 そんなことが嬉しくて、こんなに小さな手から感じる温かさと、優しさとで喜兵衛も自然と顔を綻ばせ、笑顔を彼女に向ける。
「ああ、大好きだ」
 決して多くを語ったわけではないけど、その言葉と繋がった手から、相手の想いが伝わった。




イラストレーター名:タカハシリューノスケ