橋間・緑 & 御剣・瑛斗

●この時を忘れない

 少し前に思いが伝わったばかりで緊張するけれども、緑は瑛斗を誘ってみた。
「あ、あの……クリスマス、一緒に出かけませんか?」
「ああ、かまわない。俺でよければ」
 そう微笑む瑛斗に、緑は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「じゃあ、決まりですね」

 そして、迎えた当日。
 緑が瑛斗の手を引いて、街を歩く姿がそこにあった。
「あの店もいいですし、向こうの店もいいですね」
 どちらにしましょうと迷う緑に瑛斗は。
「それなら両方行ったらどうだ?」
「そうですね」
 にこっと微笑んで、緑は嬉しそうに店へと入っていく。
 二人だけの楽しいウィンドウショッピング。
「あ、そうでした」
 ふと、足を止めて瑛斗の方を見る。
「瑛斗さんの行きたいところはないんですか?」
「俺の、行きたいところ?」
 少し考えて戸惑いながらも瑛斗は緑にそっと耳打ちする。
「じゃあ、そこにも行きましょう。まだ時間はありますから」
 その言葉に瑛斗は、照れたように僅かに微笑んだ。

 気がつけば、もう日は落ちて、街は煌びやかなイルミネーションに満ちていく。
「今日はこの広場にツリーがあるんですよ」
 そういって吐いた息が白いのに気づき、緑は今が冬なのだと改めて実感する。
「そういえば……」
 緑は続ける。
「瑛斗さんと出会ったのは、夏の暑い日でしたね……」
「ああ……」
 二人は同じツリーを見上げて、そのときのことを思い出す。
 二人の思い出が重なり、当時の記憶が甦ってゆく。

 重なる手と手。
 自分が一人ではないこと。隣に大切な人がいること。
 それが嬉しくて幸せで、自然と楽しくなっていく。
(「こんな風に楽しく嬉しいクリスマスは、生まれて初めてです」)
 これからも一緒に、隣りに居たいから。
 この手だけは……ずっと離さないように、離れないように。

(「今夜、この幸せで暖かい時だけは、これからもずっと忘れません……」)
 雪の降る夜に、大切な彼に、ありがとうを告げて……。




イラストレーター名:吉野るん