●その温もりに〜I hope you will continue to guide me
「……楽しかった。髭、剃っていらしたのびっくりでしたよ。ダンスもとても素敵でした、剛一さん」
クリスマスパーティからの帰り道、聖雪は素敵な時間の余韻に浸り、どことなく声も弾んでいた。
片思いの相手を誘ったのも、ダンスを踊ったのも、ドレスを着たのも、実は初めて。
こんなに仲が良いのに、ふたりっきりで話すのも、初めてであった。
「ああ、俺も楽しかった。あー、これか。俺も我乍ら思い切った事をしたもんだと、後々になってから考えたりもしたが、そんなに悪いものじゃないだろ?」
すっきりとした顎を撫で、剛一が彼女に答えを返す。
剛一も普段とは全然違う彼女のドレス姿を見る事が出来たため、より一層彼女に対する愛情が深まった。
そんな楽しい思い出を作る事が出来たパーティに心の底から感謝する。
「剛一さん、また……ふたりで遊びに行きませんか──っくしゅ!」
舞い降りる雪に気が付いて足を止め、聖雪が思わず彼の手に触れて大きなクシャミをした。
「はははっ、大丈夫か。……そうだな、またふたりで……おっと、ちょっと待ってくれ」
剛一が彼女に返事をしようとした途端、けたたましく鳴り響く携帯音。
……何だか嫌な予感がした。
「ガッデム! 緊急の仕事ってマジか」
思わず携帯電話を地面に叩きつけてしまいそうになったがグッと堪える。
いまはそれよりも大事な事があるのだから……。
「悪い……! 帰ったら必ず連絡するからよ。風邪引くなよ?」
自分のコートを彼女に掛け、剛一が贈り物の扇を渡す。
聖雪はこのままさよならするのは嫌だったので、心の中で神様の意地悪と思ったが、それ以上にコートと扇の温もりが優しくて、怒る気持ちも消えていく。
「ふふ……。はい、許してあげます。だから……、頑張って。いってらっしゃい、剛一さん」
素直な笑みを浮かべながら、聖雪が剛一に別れを告げる。
「おう! 行って来るぜ」
彼女の笑顔と胸のお守りのおかげで元気が湧き、剛一が気合を入れて仕事場にむかう。
そして、聖雪はそんな剛一の背中を眺め、彼の姿が見えなくなるまで見送った。。
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