●雪のように僕たちは〜宿木の下で〜
「……雪が降ってきましたね」
しんしんと降る雪を眺め、紅慈が寂しそうに呟いた。
紅慈は卒業と同時に能力者を辞める。
それは能力者として、彼女と一緒に戦えない事を意味していた。
だが、美香保との想い出は、いつまでも残っている。
……それは出会えたからこその奇跡。
「ええ、本当に……」
舞い散る雪を眺めながら、美香保がニコリと微笑んだ。
初めて彼と出会った頃は、ここまで好きになるとは思っていなかった。
何度も一緒に出掛けたり、学校でお昼休みや、放課後を一緒に過ごしているうちに、だんだん相手の事が好きだと自覚していった。
もちろん、それは紅慈も同じ。
クリスマスのイルミネーションを眺めながら、今までの思い出を語っていく。
一緒に行ったお花見や、芋ほり。
七夕の事や、戦争で共に戦った事。
彼女にとっては、戦争の時に『あなたは僕が守ります』と言われたのが決定的だった。
しばらくの間、友達以上、恋人未満の関係が続き、どちらとも言えない状態のまま、もどかしさを感じていた彼女にとって衝撃の一言。
いまでも目を閉じれば、あの時の場面が蘇ってくる。
「美香保さん、好きです」
その言葉を聞いて、美香保が胸をどきりとさせた。
心に伝わる、その言葉……。
幻聴などではなく、はっきりと紅慈の口から発せられた。
「私も……好きです」
それが美香保の答え。
ふたりとも同じ気持ちを、胸の中に秘めていた。
「でも、同じ学校の生徒として、こうして一緒にクリスマスを過ごすのは、これで最後になるんですね……」
美香保が少し寂しそうな表情を浮かべる。
それは避ける事の出来ない事実……。
「卒業まで時間は限られていますが、この瞬間をずっと覚えておこうと、思っています。そうしたら、この一瞬が永遠になると、信じていますから……。最後まで笑顔で、沢山の思い出を作っていこうと思うので」
紅慈の力強い言葉。
その言葉を聞いて、美香保は何だかホッとした。
「卒業してからもまたこうして一緒に歩けたらいいですね」
ゆっくりと空を見上げ、美香保がそっと手を繋ぐ。
紅慈はその気持ちに応えるようにして、彼女と口付けを交わすのだった。
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