鞘峰・碧 & 輝空・天虹

●Lucis Arbor

 イルミネーションに彩られた街を、並んで歩く天虹と碧。
 向かう先に見えるのは、美しくライトアップされた、大きな大きなクリスマスツリー。
 早く近くで見たくって、ふたりは道を駆けだした。
「おォ、凄ェー! こンだけデケェと大迫力だな!」
「う、わー……」
 遠くからでも目立っていたツリーは、真下へ行けばその迫力も桁違い!
 思ってた以上の壮観さに、感嘆の声を漏らす天虹。碧に至っては、最早放心状態だ。
「どーだ碧、キレーだろ……って!」
 ちょっと興奮気味に彼女の方を振り返った天虹は、その時、とんでもないものを見た。
「チョ、待て待てダメだって!」
「……え、駄目ってどーいう事さー!?」
 間一髪。
 まるで引き寄せられるかのようにツリーに登ろうとする碧を、天虹はどうにか手を掴んで静止した。
「何でさ! 高い木があったら登るのは、人間の性じゃないか!!」
「ツリーはそンなアクティブな楽しみ方をするモンじゃねェよ!」
「じゃあどうやって楽しむのさ!」
「見るの! 見て楽しむモンなの!!」
 …………!!
 ………………!!!
 暫しの熱い攻防。
 結果、不承不承ではあるが、碧はツリー登りを諦めてくれた。
 けれどそこに、また新たな問題発生。
 それは、碧を止める際に握った手。
(「は、離した方が良いよな? でも、このタイミングじゃ変だろーか……」)
 だからって、このままってのも……。
 天虹の頭の中で、思考がグルグル渦を巻く。
「あれ、輝空さんどーかした?」
 そんな事などつゆ知らず、碧は天虹の手をしきりに引く。
「ほら、見て楽しむものなんでしょ? 折角だから見なきゃ勿体無いよ」
 碧はそう言って笑い、天虹の顔を覗き見るが、彼の視線は何故か宙を彷徨い気味。
「……?」
 彼は一体どうしたんだろう?
 考えてみても分からない。けれど、繋いだ手の温もりが、とても心地良いことだけは分かる。
 ならば、もう少しの間だけ、こうしてツリーを見上げていよう。

 ふたりで下から見上げたツリーは、ひとりで上から見るツリーより、きっとずっと、素敵な想い出になるに違いないから………。




イラストレーター名:地下