沢渡・尊 & 水守・梢

●クリスマスパーティー 〜小さな小さな・・・〜


「素敵ね」
 大正浪漫いっぱいのコーヒーショップの中、梢の囁きに尊は胸をなで下ろした。
 落ち着いた雰囲気の店内に、素敵なメニュー。
「まるで此処だけ時間を止めてしまったよう」
 尊はここを気に入っていたが、梢が気に入ってくれるかどうかは別問題。だから、その言葉と輝く梢の表情は何よりも尊を安心させてくれた。まるで、あまり会えない状況が生んだ、この胸中の不安を少しだけ消し去るように。
「僕たちが……その、付き合ってから数年経ったよな?」
 何気なく口に出したのは、確認の意味があったのだろうか。
「変わったよな。僕たちも」
「そうね」
 大人っぽくなったし、と続けた後で梢に声をかけられ、何かに気づいたように目を見開く。
「……え、自分で言ってる時点で違う?」
「ううん」
 首を横に振ったのは、誘ってくれたこの場所へ入った時「大人になったものだ」と実際に思ったから、だ。
「変わらないものなんてないんだと思う」
「……目まぐるしく様々な物が変わりゆくこの世の中で、変わらない物があるわ」
 変わったと幾度も口にし、ポツリと呟いた尊へと梢は再度首を振ると言葉を続けた。
「そう、それは人の愛」
 一度言葉を切り、真っ直ぐ見つめた尊の瞳には梢の姿。
「あんたはどう、尊……あたしはまだ」
「でも」
 あんたの心の中に居ると問いかけるより早く、尊の小さな声が言葉を遮る。本来、否定の頭につける二文字の言葉。
「(……その、もっと好きになった)」
 聞こえるか聞こえないか分からないほど小さな声で尊は告げた。自身の気持ちが変化し……もっと好きになったと。

「とと、渡すものがあったんだ」
 否定と告白で止まってしまった会話を再開する為か、照れ隠しか。慌てながら尊は懐を探ると、手が触れた小箱を、テーブルの上へと。
「……これ……あたしに……?」
 そっぽを向きつつ梢の方へと押し出せば、箱を眺めて口を押さえつつ梢が尋ねる。尊が頷くのを見て小箱を開けば、中には小さな銀の指輪が鎮座していた。
「きれい! え、まさか婚約指輪っ?!」
「……別に、その、深い意味なんてないけどっ」
 小さな赤い薔薇を咲かせた指輪を手に取り、ハッと顔を上げた梢を直視できず、尊はそっぽを向いたまま嘘をつく。尊にとって、婚約指輪と同じぐらいの意味がそれにはあるのだ。
「ありがとね? 」
「ん、うん」
 何処か見透かされたような気がしながらも、梢の笑顔に尊は頷く。顔を上げると梢の指には贈られたばかりの指輪がはめられていた。




イラストレーター名:らうん