仄寺・ユズ & 茜・優介

●Holy Night...

「マジ最悪……。パーティ中にコケるわ、ドレス破くわ、足くじくわ……。どうして、あたしばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないの」
 優介に背負われながら、ユズが片足の折れたヒールを持ち、ブツブツと文句を言う。
 ユズは慣れないドレスを着込んで、学校主催のパーティに参加したのだが、途中で裾を踏んで躓いてしまい、ヒールの足と一緒に自分の足まで痛めてしまったらしい。
 こんな事がなければイルミネーションの彩りに心を奪われていたかも知れないが、こんな事のあった後では素直に夜景を楽しむ気持ちにはなれなかった。
「まぁ、そう愚痴るな。せっかくのクリスマスなんだし、ちょっと回り道をしていくか」
 とても上機嫌な様子で、優介が帰り道とはまったく別の道を歩いていく。
「バ、バカじゃねーの。恥ずかしいんだから、とっとと家につれてけよ!」
 恥ずかしそうに頬を染め、ユズが優介に対して文句を言う。
 だが、優介は『まぁ、いいじゃねえか、今日くらい……。』と答え、彼女に何を言われても考えを改めようとしなかった。
「そういえばアパート改装したんだって?」
 背中でユズの温もりを感じながら、優介が何気なく彼女に問いかける。
「……ああ。あそこには何となく居難いんだよな」
 眠そうに目を擦りながら、ユズが面倒臭そうに答えを返す。
 今日は昼間からバイトをしていたため、その疲れが出ているのかも知れないが、それ以上に優介の背中がポカポカと暖かい。
 そのため、まるで吸い込まれるようにして、眠りの世界へと引き込まれていく。
「……まっ、それなら、俺ん家に来ればいいじゃねーか」
 苦笑いを浮かべながら、優介が彼女を自分の家に誘う。
 しかし……、返事がない。
「……仄寺サーン、風邪ひくぞー」
 どうしても返事が聞きたかったので、優介がユズに視線を送る。
「……って、寝ているのかよっ! はぁ……、仕方ねーな……。まぁ、いいか。俺ん家もこっから近いし……」
 自分の家と彼女の家までの距離を計算し、優介がひとつの結論に到達した。
「このまま連れてくけどー、イイデスカー」
 もちろん、彼女からの返事は無い。
「……よし、おっけーおっけー。このままつれて帰りますわ。ちょっと、外は寒いしな。風邪を引かれたら大変だし……」
 そして、優介はユズの事を背負ったまま、真っ直ぐ自分の家に帰っていった。
 



イラストレーター名:れんた