●聖なる夜に
クリスマスの夜。
妙法寺と涼風はイルミネーションに彩られた街並みをふたりで散歩していた。
ふたりとも恋人はおろか、好きな人もいないので、クリスマス当日である事すら気づいていない。
共に恋人も好きな人もいないふたりにとって、クリスマスは程遠い存在……。
その上、受験生である事も重なって、気にもならなかったようである。
「なんだか街が賑やかね……」
何気なく辺りを見回しながら、妙法寺がボソリと呟いた。
いつもと違って街並みが美しく飾りつけられており、カップルが多いせいで賑やかである。
「もうすぐクリスマスだからな」
ゆっくりと夜空を見上げ、涼風が真っ白な息を吐く。
いまにも雪が降りそうな雰囲気が漂っているため、カップル達が身を寄せ合っている。
「景観を汚す猿は少し減った方が良いと思うわ」
クールな表情を浮かべながら、妙法寺がさらりと答えを返す。
辺りにはカップル達が捨てた物と思しきゴミが転がっており、彼女にはその方が気になっていた。
「いや、それはちょっと……」
苦笑いを浮かべながら、涼風が気まずい様子で汗を流す。
確かにカップル達のマナーが悪い事は確かだが、今日がクリスマスである事を考えると、多めに見ても良さそうだ。
「特に若いカップルは滅びても良いわね」
『クリスマスだからって関係ないわ』と言いたげな雰囲気を漂わせ、妙法寺が特にマナーの悪いカップル達をバッサリと切り捨てた。
もちろん、実際に手を下すつもりはないのだが、彼女の視線を感じてゴミをポケットの中にしまったカップルもいるようだ。
ただし、カップル達が特別憎いというわけではなく、ただ単にマナーの悪い相手が、カップルだったというだけのようである。
「……」
流石に返す言葉がなくなり、涼風が困った様子で口をつぐむ。
ここでカップル達をフォローしたところで、何もプラスにならない上、彼女が間違った事を言っているわけでもないので、何も言う事が出来なくなった。
「でも、綺麗ね。省エネに真っ向から喧嘩売ってる感じで」
その空気を察したのか、妙法寺がゆっくりと辺りを眺め、彼女なりに街並みを褒める。
「え、あ、いや……そうだな。綺麗だな」
そのため、涼風も呆気に取られた表情を浮かべ後、納得した様子で辺りを眺めるのであった。
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