●おいしく召し上がれっ
まきなの大叔父が経営する、鎌倉の老舗煎餅店『臥龍堂煎餅店』の二階に、彼女が間借りしている部屋がある。
彼女達はコタツに入って冷えた身体を温めながら、そこで今日一日あった事を話し、ふたりきりのクリスマスを楽しんでいた。
「ケーキが出来たのです。一緒に食べましょう!」
まきなが腕によりを掛けて作ったブッシュドノエルをコタツの上に置く。
途端にブッシュドノエルから、ほんのりと甘い匂いが漂い、空腹状態にあったピジョンの胃袋をダイレクトに刺激した。
「寒い……、手をおこたの外に出したくないですわ」
カタカタと身体を震わせながら、ピジョンがまるで子供のようにだだをこねる。
本当は食欲の方が勝っているので、何とか頑張ればコタツから手を出す事も出来るのだが、ハッキリ言って面倒臭かった。
そこでパワーを使ってしまうと、ブッシュドノエルを食べる前に倒れてしまう……かも知れない。
とりあえず、そういう事なので、まきなに助けを求めるようにして、熱い眼差しを送るピジョン。
「じゃあ、じゃあ、まきなが食べさせてあげるのです」
苦笑いを浮かべながら、まきなが近くにあったフォークを手に取り、ケーキを一口大のサイズに切っていく。
ピジョンにはその行為がとてもじれったく感じられたが、食べさせてもらう立場なので文句は言えない。
「はい、あーん……」
一口大のケーキをフォークに突き刺し、まきながピジョンに声をかける。
……届かない。
後もう少しでケーキを食べる事が出来るのだが、コタツから手を出したくないピジョンは、その場から必要以上に動こうとはしなかった。
だが、そこから動かなければ、ケーキを食べる事が出来ないため、ピジョンの中でふたつの勢力が小競り合いを始め、『ケーキを取るべきか、コタツを取るべきか』自問自答し始める。
本音を言えば両方とも選びたいのだが、この状況ではどちらも失ってしまう可能性が高い。
その事を察知したのか、まきながコタツから身を乗り出し、再び『あーん』と呟いた。
「何だか、ちょっと恥ずかしいですわね」
まきなの顔が迫ってきたため、ピジョンが顔を真っ赤にする。
そう言われて、まきなも何だか恥ずかしい気持ちになり、緊張した様子でピジョンにケーキを食べさせた。
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