白坂・水奈 & 時任・薫

●クリスマスの夜に

 銀誓館学園で行われた賑やかなクリスマスパーティーの数々も終わり、静かな夜が訪れた。
 恋人である薫の家にお泊り……ということで、水奈は少し緊張している。
「ええと……パーティーで食事はしましたし、お腹休めに何か飲みませんか?」
「ああ。ココアがありますよ。いれて来ましょうか」
 水奈の提案に、薫が微笑んで答える。水奈はふるふると頭を振った。
「い、いえ。私がいれますよ〜」
 キッチンを借りて、ミルクを温め、ココアをいれる。暖かい湯気と、チョコレートの甘い香りで、水奈の緊張が解けていった。
 2つのマグカップをリビングに運び、水奈は薫に勧められてソファに腰かけた。薫はソファの後ろに立って、背もたれ越しに水奈の肩に触れる。お互いが持っているカップの湯気が混ざり合うくらい、とても、近い距離。
「……今年一年、色々ありましたね」
 もう年末だ。この一年間の思い出を語り合い、水奈はしみじみと呟いた。
 驚いたことも、面白かったこともたくさんあった。2人で作った思い出も。
「今日のパーティー、楽しかったな」
 水奈の左手に視線を落としながら、薫が言った。
 今日のパーティー。水奈の薬指に光るのは、その時に薫が渡した指輪だ。
「そ、そういえば、パーティーでは沢山の人の中でしたけど、……」
 今は2人だけの空間。再びそれを意識してしまって、水奈は赤面した。
 薫と一緒に左手薬指の指輪を眺めながら、水奈は思い切って口を開く。
「え、えと、その……良かったら、薫さんのご両親にも会ってみたいですし、私のお父さんとお母さんにも会ってもらいたいのです〜」
 言ってしまった。水奈の心臓が早鐘を打つ。
 まだ早いと笑われたりしないだろうか。そんな気はないと言われたらどうしよう。
 色々な思いが水奈の心をよぎる。けれど、そんな心配など必要はなかったのだと、微笑んだ薫の瞳が教えてくれた。
 返事の代わりに贈られたのは、唇へのキス。
 ルームライトの柔らかな光の中、重なった2人の影が、やがてそっと離れる。
 耳まで真っ赤になった顔を見られないように、水奈は俯いた。
「……明日の朝食は私が作りますから、好きな食べ物リクエストしてくださいね」
 照れ隠しの言葉に、薫は嬉しそうに笑う。そんな薫の指にも、水奈とおそろいのシンプルなシルバーリングが光っていた。
 今夜のこの時間も、きっと大切な、今年の思い出になる。
 ココアの甘い香りと共に、恋人たちの聖夜はゆっくりと深けていった――。




イラストレーター名:J.2