長森・瑠那 & 宵闇・陰月

●サンタクロースを捕まえた

 銀誓館学園では、今年も色々な場所を会場に、様々な趣向を凝らしたクリスマスパーティーが開かれている。
 その会場の1つが、わっと歓声にわいた。ケーキが出てきたのだ。
 長い黒髪のサンタガールが、一緒に来ているトナカイの手を引く。
「陰月さんも早くっ! ケーキなくなってしまいますよ」
 用意されたケーキは、バイキング形式。育ち盛り食べ盛りの学生達ばかりが集まっているパーティーなので、いくらたくさん用意してあっても、のんびりしていたら一口も食べられない。
 幸い、2人は間に合った。
「……甘いのって、幸せやよね」
 トナカイの着ぐるみを着た陰月は、確保したチョコレートケーキを一口食べて、ほんわりと口許を緩めた。
「そうですね」
 瑠那は、苺の乗った白いケーキを持っている。
「瑠那も好き? 甘いの……」
 こっちも食べてみる?と、陰月はチョコケーキをフォークに刺して、瑠那に差し出した。
「はい、あーん♪」
 陰月はにっこり笑う。
 この「あーん」を、一度やってみたかった。クリスマスだし。ちょっとは調子のってもいいかなって。などと思っている陰月の手元に、瑠那はためらいなく唇を寄せた。
 陰月の差し出したケーキを、一口ぱくり。
「甘くておいしいですね」
 瑠那が、花が咲いたような笑顔になる。それはケーキの美味しさ故か、それとも陰月に食べさせてもらったからか。きっと、両方なのだろう。
 2人で一緒に甘いものを食べる、幸せな時間。
 瑠那が不意に、ふふ、と笑った。
「陰月さんのトナカイさん、可愛いですね」
「……瑠那可愛いの好きだし。喜んでくれるといいなと思って、これにしたんだ」
 自分のことを考えて衣装を選んでくれたと思うと嬉しくて、同時に、自分の格好はどうだろうかと瑠那は気になってしまう。
「サンタの格好どうですか? スカートの丈少し短かったでしょうか」
「やっぱり俺には瑠那が一番。……サンタの格好も、とっても可愛い」
 少し頬を染めながら訊ねた瑠那に、陰月は迷いなくそう答えた。
「メリークリスマス、俺の愛しいサンタさん」
 そっと、背後から抱き締められて、瑠那は顔を真っ赤にする。けれどそのまま目を閉じて、陰月のぬくもりを感じていることにした。
 瑠那にとって学園生活最後のクリスマス。
 けれど、陰月と過ごすクリスマスは来年もその次の年も続けて行きたい。
「……来年もまたよろしくおねがいしますね」
 目を閉じたまま、祈りと願いを込めて、瑠那は囁く。
 彼女のトナカイは、もちろん深く頷いた。




イラストレーター名:J.2