翠雨・香 & 鳥羽・白夜

●Shall We Dance?

 クリスマスパーティーのメイン会場。
 そこでは、華やかなダンスパーティーが行われていた。

(「ダンス、というのは何だかどきどきしますね……」)
 淡い色のドレスを身にまとい、香は緊張した面持ちで、会場の入り口にいる。
 隣には、同じくダンスに相応しい服を身にまとう白夜の姿も。
(「やっぱり、こういう時は男の方からエスコートするべきだよな」)
 覚悟を決めて、白夜は香に手を差し伸べた。
「じゃあ、香……」
「はい、ですっ」
 差し伸べられた手に、香の手が重なり。
 白夜の緊張が、さらに高まる。
(「……このあとなんて言って誘えばいいんだろう? ……『踊っていただけますか、お姫様』とか言うべきなのか?」)
 ぐるぐると白夜の頭で、様々な葛藤が繰り返されている。
 止まってしまった白夜に香は、しばし待つことにした。
(「ええと……ここは男性を立てる意味で、待っていることにしましょうか」)
 そう思ってしばらく待っていたが、なかなか動き出さない。むしろ、悪化している?
(「どうやら、お困りのようですね」)
 こくりと香は頷き、白夜の手をそっと引いた。
「いきましょう」
 笑顔の香に、白夜は頷くことしかできなかった。

 音楽が流れる。
 恐らくジャズかなんかだろう。
 と、いうのも、実はこの二人。ダンスは今回が初めてだったりする。
「……えっと……とりあえず回ってみましょうか?」
 香がそう提案する。
「……この場でくるくると?」
 ダンス論議になりそうになったが、二人の意見は、まず回ってみようということで一致した。
「ええっと、右回り?」
「別に左回りでもいいけど……っていうか、どっちに回った方が目を回さないかな?」
 なんだか話がかみ合っていないのは、気のせいだろうか? 二人の話はなおも続く。
「両方に回ってみればよいのでは!」
 そういう香は何故か誇らしげに。
「じゃあ、最初は右に回って、次に左に……洗濯機みたいな気分になってきた」

(「クリスマス、こんなんでいいのかなぁ……」)
 そう思いながらも、二人は楽しげに、初めてのダンスを踊りだす。
 傍から見て、彼らがどんな風に映ったのかは、あえて言わないで置こう。
 なぜなら、ちょっぴりぎこちなくても、二人は楽しいひと時を過ごせたのだから。




イラストレーター名:有水翠