木賊・エル & ダンテ・ブラック

●柔らかな鎖、暖かな檻

 テーブルの上に並ぶのは、何だかやたらカラフルで、ちょっぴり笑撃的な料理。
 恋人のために頑張りすぎたた結果なのだが、やはりどうにも「残念」としか言いようのいない料理。

 けれど、今はそんなことなんてどうでもいい。
 何故なら、サンタ姿の恋人が、帰国の予定をキャンセルしてまで部屋を訪れてくれたから。

「メリークリスマス!」
「めっ、メリークリスマス☆」
 ドキドキと、破裂しそうなほどに高鳴る胸を抑えつつ、エルはダンテに飛びついた。
 そんな、ちょっと硬直気味のエルの姿に、いつも以上の愛おしさを感じるダンテ。
 視界の隅にちょろっと見える、電飾の飾られたターキーのことは、とりあえず今は考えない方向で。

 ふわり、ダンテの首に巻かれたものは、長い黄色の手編みマフラー。
 その片一方を、エルが少し恥ずかしそうに自分の首にも巻けば、ダンテは優しい笑みを浮かべ、彼女をそっと抱き寄せた。
「わっ……」
 彼の温もりが、鼓動が、より一層近くなる。
 照れ臭くて、嬉しくて……だからほんの少し上目遣いで、エルはダンテに尋ねてみた。
「……ココはボクだけの場所、だよね……?」
「今はネ」
 さらっと笑顔で返された、ほんのちょっと意地悪な言葉に、エルは一瞬固まった。
 けれど……。
「……ジョウダンですヨ。エルさんがそう望むなら」
 耳元でそっと囁かれ、少し強めに抱きしめられれば、ショックは忽ち解けてゆき、代わりに一層の嬉しさが込み上げてくる。

 変な形のブッシュ・ド・ノエル。
 原色アザランがたっぷり散りばめられたタルト。
 多分料理……だと思うモノ。
 台所からは、正体不明の何かが見え隠れ。
 けれど、今はそんなことどうでもいい。
「あったかい……」
 ほんのりと頬を朱に染めて、腕の中でエルが呟く。
 サンタ服にマフラーのダンテは、部屋の中でこの格好は流石に暑いなとも思ったが、とりあえずそれは胸に秘め、エルの背中を優しく撫でた。

 ダンテに絡みつく、柔らかな黄色い鎖。
 エルを包み込む、暖かな赤い檻。
 どうかそれが、永久に続きますように………。




イラストレーター名:衣谷了一