●「ここのシチュエーションは……」「芹ィィィ!!」
「随分と忙しそうだな。何か急ぎの用でもあるのか?」
部屋に入った途端、かなり真面目な顔をして机にむかっている芹の姿が飛び込んできたため、光杞が何をしているのか、何となく気になった。
「なぁ、ここのシチュエーションは何がいい?」
それが芹の答え。
一体、何を言っているのか分からない。
それ以前に、まったく意味が通じていない様子。
「いきなり、何だよ。シチュエーションって」
もう一度、聞き返す。
今度は、ハッキリと、聞こえるように。
「えーっと、ああ……。同人誌の」
ようやく、そこで光杞の言っている事を理解できたのか、芹がさらりと答えを返す。
よく見れば床には無数の本やら、紙が乱雑に散らばっている。
「はっ? 何だよ、同人誌って」
危うく納得しそうになった自分に喝を入れ、光杞が身の危険を感じて芹に詰め寄っていく。
何だか、とても嫌な予感がする。
単なる気のせいなのかも知れないが……。
「いや、だから……。俺とひかちゃんの」
……予感的中。
脳裏に過ぎるのは、危険極まりないシチュエーション。
まさか、あんな事やら、こんな事まで。
いやいやいや、まさか。
そこまでは……。
何だか危険な方向へと妄想が膨らんでいく。
「……って、芹ィィィ!! ちょっと待て! 一体、何を描いている」
すぐさま芹の傍まで駆け寄り、原稿の中身を確認する。
まだ下書きなので、よく分からないが、自分達をモデルにしている事だけは、何とか理解する事が出来た。
「いや、ただの恋愛ものだけど……」
まったく悪びれた様子もなく、芹がさらりと答えを返す。
芹としては、自分達をモデルにしているだけなので、別に悪意があるわけではないようだ。
「……というか、そこに問題があるだろ」
再び生暖かい視線を送る。
「大丈夫。別にイチャイチャしてないし」
何が大丈夫なのか、分からない。
余計に膨らむ光杞の不安。
だからと言って、ここで芹を非難していい理由にもならない。
「大丈夫……なのか」
そのため、光杞は呆れた表情を浮かべ、芹の作業を仕方なく見守るのであった。
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