●恋人はサンタクロース
『夜更かししないで、早寝して良い子にしてたら、良い事があるかもな』
クリスマスデートが終わった後、葵から告げられた言葉。
真理はその言いつけ通り、布団の中に潜り込み、胸をドキドキとさせている。
「えへへ……、正直、楽しみ、かも」
何だか、サンタを待つ子供の気分。
わくわくしながら、ベッドの中であれこれと考えていくうちに、真理は眠りの世界へと誘われていった。
一方、その頃……。
「頼むから、良い子でいてくれよ」
祈るような表情を浮かべ、葵が抜き足差し足で、真理の部屋まで歩いていく。
彼女が本当の良い子なら……、今頃すやすやと眠っているはずだ。
……たぶん。
真理の願い事は『葵君』。
つまり彼自身。
願い事が書かれていた紙は、真理とデートをする前に、彼女の部屋まで迎えに行き、その時に予め手に入れておいたもの。
どんな願いが書いてあるのか分からなかったので、早めに紙を手に入れておいたのだが、これならばデパートまで走る必要も無い。
……とは言え、少し緊張する。
一応、真理の部屋には何度も入っているのだが、こういった形で彼女の部屋に入るのは、初めて。
「くすっ、吃驚するかな?」
そんな状態を楽しんでいるのだから、意外と子供っぽいのかも知れない。
出来るだけ物音を立てないようにしてドアを開き、葵がゆっくりと真理の部屋に入っていく。
真理は……、グッスリと眠っている。
これならば、多少の音を立てたくらいでは、目を覚まさない。
「おはよう、真理」
爽やかな笑みを浮かべ、葵がベッドで眠っている真理を起こす。
「……夢?」
寝ぼけた表情を浮かべ、真理が自分の目を擦る。
葵の格好がサンタクロースだった事もあり、現実なのか、夢なのか、区別がついていない。
「いや、夢じゃない。メリークリスマス、真理」
寝ぼけたボンヤリとしている真理に答えを返し、葵がお姫様だっこをして無邪気に笑う。
その表情はまるで悪戯が成功した子供のようだった。
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