●〜サンタ様がみてる〜
一度してみたかった苑生の真似をして三つ編みしつつ、琴古が彼女と向かい合うようにしてコタツに入る。
苑生は田舎から送られてきたみかんをパクつき、幸せそうな表情を浮かべて溜息を漏らす。
そして、琴古はポツポツと最近の話をし始める。
まずは預かりものである豚の貯金箱『百介(ももすけ)』の話。
『百介』は琴古が蚤の市で購入した陶器製の貯金箱。
円らな瞳がきゅるるんとしており、愛嬌のある表情を浮かべている。
それから話は最近、読んだ小説の話になり、自ずとテンションがヒートアップしていった。
彼女達が読んだ小説にはスール制度と言うものがあり、姉妹のチョメチョメなど、気になる謎がてんこ盛り。
巻数が進むにつれて深まる謎も多いのだが、それ以上に興味をそそる内容が多いので、ついつい時間を忘れて読み続けてしまうようである。
「ごきげんよう、こっつぁん」
唐突に思いつく限りの優雅さで、苑生がさっそく登場人物の物真似をし始めた。
そのため、琴古も『苑お姉様……』と咄嗟に答え、禁断の世界へと少しずつ足を踏み入れていく。
「……んんん〜、何かが違う」
ふたりで顔を見合わせながら、クスクスと笑い声を響かせた。
何とかして雰囲気だけ真似てみようと思ったが、あまりにも難易度が高いせいで肝心なところで笑ってしまう。
逆に上手く真似する事が出来たとしても、後戻りする事が出来なくなりそうなので、それはそれで問題なのかも知れないが……。
「小説に登場しているキャラクターで、自分に近い存在を見つけて当てはめて行けば、もっとやりやすくなるかもしれませんね」
小説をペラペラとめくりながら、琴古が自分に近いキャラクターを探す。
そうしているうちに夜が更けていき、ふたりは眠りの世界へと旅立った。
「あ、あれ……?」
それから、しばらくして……。
苑生がハッとした表情を浮かべて目を覚ます。
どうやら夢の中で禁断の百合世界を体験していたらしく、思い出すだけでも恥ずかしくなってきた。
そんな事を考えながら、苑生が琴古を起こそうとして、コタツの上に置かれたプレゼントに気づく。
そして、彼女の背後にある窓辺には、遠く小さくサンタとトナカイの陰が映っていた。
| |