●聖夜の一時
クリスマス、イルミネーションは今夜が最高潮。街の至るところで、美しい光を目にすることができる。
エカテリーナと領主は、そんな街の中を2人で歩いていた。
近くの公園に大きなツリーがあると聞いて、一緒に見に行こうということになったのだ。
「楽しみです」
エカテリーナの頭の上、毛糸の帽子についたふわふわのウサ耳が揺れる。
領主は、エカテリーナと手を繋いでいた。
そうしなければ足元が暗くて危ないし、今夜は人通りも多くて、小さなエカテリーナとすぐにはぐれてしまいそうだから。
2人、お互いの掌のぬくもりを感じながら夜道を歩く。
公園に到着してからも、領主はお姫様にそうするように、うやうやしくエカテリーナの手を引いた。
「わあ……!」
「これは……見ごたえがあるな」
ツリーのある広場に到着すると、エカテリーナも領主も目を丸くする。
広場はとても明るかった。それというのも、中央に飾られたツリーがとても大きいからだ。
キラキラと瞬く電飾に照らされる、枝にかけられた色とりどりのモールや、たくさんのオーナメント。
「すごいです。こんなに大きなツリー、初めて見ました!」
エカテリーナは目を輝かせて、ツリーを仰いだ。
「リボンに、星に……あ、天使やサンタさんも居ますね!」
美しく可愛らしいオーナメントを、エカテリーナは1つ1つ指さし、新しい種類のものを見つける度に歓声を上げる。
ツリーに使われているモミの木は本当に大きくて、ゆっくりと眺めながら周りを回るだけでも少し時間がかかるくらいだった。てっぺんは、はるか頭上。
ツリーの頂に輝くクリスマス・ノヴァは、領主には見えているけれど、きっとエカテリーナの視線の高さからは見えていない。
「?」
繋いでいた手が離れたので、エカテリーナは領主を見上げた。領主は目を瞬く彼女を、おもむろに抱き上げる。
「この方がよく見えるだろう?」
微笑みかけられても、エカテリーナはすぐには返事ができない。
あまりにも突然すぎて、驚きで顔が真っ赤になった。けれど、領主の笑顔で、エカテリーナの心臓は少しずつ落ち着きを取り戻す。
キラキラと輝くツリーを、2人で見上げた。
今度は、頂上のノヴァも一緒に見ることができる。
「私……幸せです……」
エカテリーナは呟いた。
領主の応えは、穏やかな微笑み。
黒いレンズの入ったグラスで隠れているけれど、彼の瞳はその奥で優しい光を浮かべているはずだと、エカテリーナはよく知っている。
幸せな2人を、ツリーから降り注ぐ光が、柔らかに照らしていた。
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