神崎・青藍 & 佐和姫・六花

●優しき恋の約束

「六花師匠……今日からは、六花さんと呼ばせてもらえませんか? 二人でいる時だけで構いませんから」
 毅然とした態度で片膝をつき、青藍が六花の手を取った。
 青藍は昼間のうちに六花に愛の告白して、その気持ちを受け入れてもらっているのだが、もう一度改めて彼女に告白……。
 もちろん、ここで断られる可能性はゼロに近いが、自分なりにきちんとけじめをつけておきたかった。
 彼にとって六花は色々な意味で頭の上がらない存在……。
 そのため、彼女を呼ぶ時には、必ず師匠をつけている。
 だが、恋人同士になった以上、それは不要……。
 少なくとも青藍はそう感じていた。
 もちろん、それは一緒にいる時に限った事。
 ふたりだけの時にのみ、許される事だと思っている。
「青藍……、いえ青藍様、幾久しくよろしくお願い申し上げます」
 普段は師匠然とした様相を見せていたが、その雰囲気を年相応の少女らしく変化させ、六花が恥ずかしさと嬉しさを合わせたような表情を浮かべて答えを返す。
 自然と口から言葉が漏れた。
 それも当然なのかも知れない。
 それだけ彼女にとっては、当たり前の事……。
 青藍と恋人同士になった時点で、『師匠』をつけて呼ばれる必要がないと思っていたのだから……。
 だが、きちんと彼がその事を告げた上で、彼女を『さん』づけで呼ぶようにした事が、何だか嬉しく思えてきた。
 誠実な正確な彼だからこそ、好きになったのかも知れない。
(「……お慕い申しております、青藍様」)
 改めて青藍の魅力を再確認しながら、六花がゆっくりと視線を送る。
 ……青藍の真っ直ぐな視線。
 その瞳にまったく迷いが無く、彼女の姿だけが映し出されていた。
「愛してます。六花さん」
 六花に微笑みかけながら、青藍が彼女の手の甲にキスをする。
 その姿はまるで王女に従う騎士のようであった。




イラストレーター名:秋月えいる