●ジンジャーマンと苺ちゃん
「クリスマスケーキって言えば、ブッシュ・ド・ノエル! フォークで引っかいて、模様つけるんだよーう。飾りに使うクッキーも頑張って焼いたんだから! じゃんじゃん乗っけていくんだい」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、朱香がケーキを飾りつけていく。
そのたび、ケーキの見た目が豪華になっていき、まるでお菓子で武装されているようにも見える。
「美味しそうな大粒苺ちゃん……、これ高かったんだからにゃー感謝しろにゃー」
無表情のままボソリと呟き、暁が飾り付け用のイチゴを渡す。
クリスマスと言えばケーキなので、飾り付け用の苺も、奮発して高いものを買ったため、心の中ではテンションがグングンと上がっている。
(「砂糖菓子のサンタとかも甘そうでいいなぁ。ビスケットの家も美味しそう……」)
……砂糖菓子のサンタと目が合った。
砂糖菓子のサンタは円らな瞳をきゅるるんとさせ、『食べて、食べて』とアピールしている。
思わずそこで手を伸ばしそうになるが、朱香の殺気に気づいて我に返った。
(「危ない、危ない。我慢しなきゃ」)
『砂糖菓子、恐るべし』と心の中で思いつつ、暁がブンブンと首を横に振る。
だが、お菓子達の誘惑は収まる事が無く、あちこちから『食べて食べて』の大合唱が聞こえてきた。
(「これは単なる幻聴……。お菓子を食べたいと思っているオレを誘惑するための罠……。あっ、美味しそうなジンジャーマンがオレを見てる……! クッキーの一つくらいいいわよねー。……ケーキ作りの醍醐味っていったら、つまみ食いだもの。きっと、OKよねー」)
心の中で独自の理論を展開しながら、暁がジンジャーマンがもぐもぐと食べる。
その途端にお菓子の味が広がり、幸せな気持ちに包まれた。
「素晴らしきかなクリスマス……」
今日がクリスマスである事に心から感謝しながら、暁が再びあーんと口をあける。
「……って、ちょっと、きょん。一体、何をしているのさ!」
ハッとした表情を浮かべながら、朱香が彼女の頭にチョップを放つ。
そこで暁がようやく我に返り、『それは誤解……。悪いのはジンジャーマン』と言い訳をした。
もちろん、そんな言い訳が彼女に通じるわけも無く、『次につまみぐいをしたら、ただじゃおかないからね』と警告され、おあずけを喰らった犬のような心境に陥りながら、ケーキの飾り付けが終わるまで待つ事になった。
そして、何とかケーキの飾り付けが終わり、リビングに移動してパーティが始まる。
ドキッ☆女だらけのクリスマスパーティー。
……二人だけの。
「それじゃ、メリークリスマース! あっ、その大粒苺は僕の!」
瞳をキラリと輝かせ、朱香がケーキに手を伸ばす。
「だったら、そのサンタさんオレのな!」
そのため、暁も自らの右手にすべての運命を託し、砂糖菓子のサンタに狙いを絞り込む。
そして、ふたりは心ゆくまでケーキの味を堪能し、クリスマスの夜を過ごすのだった。
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