●生活費の稼ぎ時?
(「……急遽、手伝いを頼んでしまいましけど……、いま思えば悪い事をしましたね」)
反省した様子で溜息をつきながら、鈴香がシグルドに視線を送る。
鈴香のバイト先である商店街のケーキ屋が、人手不足になっていたため、彼女からシグルドにお願いし、バイトを手伝ってもらう事になった。
シグルドはサンタの衣装に身を包み、彼女のところまでケーキの入った箱を持っていく作業。
そして、鈴香はシグルトから受け取ったケーキの箱を店頭にならば、売り子として接客するのが仕事。
彼のおかげで仕事がスムーズに進み、店頭に積まれていた箱の数も減っていく。
シグルドも普段のバイトとは違う面白さを感じており、自然と仕事にも力が入っている。
「おっ、彼氏さん、仕事頑張ってるね」
満面の笑みを浮かべながら、ケーキ屋の店長が鈴香の肩を叩く。
「ち、違います」
店長の言葉を、鈴香が慌てて否定する。
幸いシグルドはケーキが入った箱を取りに行っているので、ふたりの会話が聞かれる事はない。
「えっ? 違うの? そんなわけないでしょ。だって、いつもの鈴香ちゃんは、営業スマイルか、無表情だし……。それが今日はまるで別人だよ」
彼女の気持ちなど露知らず、店長がハイテンションで語りだす。
そのため、鈴香があわあわとした表情を浮かべ、『い、いまは仕事中ですよっ!』と言って店長を追い返した。
それでも、顔が真っ赤になっており、心臓がドキドキと高鳴っている。
「鈴香さん、なにか足りないものがありましたか?」
不思議そうに首を傾げ、シグルドが鈴香に話しかけた。
「な、なんでもありません!」
ビクッと身体を震わせ、鈴香が叫ぶ。
途端に集まる周囲の視線。
(「み、みんな、見てる……!?」)
……何とか冷静になる事が出来た。
「ささっ、早くケーキを売ってしまいましょう」
自分の気持ちを誤魔化すようにして、鈴香が急かすようにケーキを売る。
そのおかげで予定よりも早くケーキが完売した。
「今日は、ありがとうございます。助かりましたし、楽しかったです」。
ホッとした表情を浮かべ、鈴香がシグルドにお礼を言う。
それにシグルドがいなければ、ここまで早く終わる事がなかったかも知れない。
「いや、俺のほうが普段お世話になってますし、ね?」
恥ずかしそうな表情を浮かべ、シグルドが笑顔を浮かべる。
いつの間にか、空からはポツポツと雪が降っていた。
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