氷月・亜羅紫

<大いなる災い 侵攻開始!>


 静岡県の伊豆半島最南端、石廊岬。
 石廊岬灯台に集った銀誓館学園の能力者達が見下ろす海上には、無数のゴーストが溢れていた。
 飛ぶもの、泳ぐもの、海面を走るもの……。
 刻一刻と陸地へと近付きつつあるその数は、とうに万を超えている。
 本来ならば知能など持ちようはずもない妖獣達が明白なまとまりをもって行動しているのは、これまで幾多のゴーストとの戦いを経験した能力者達にとっても異様な光景であった。

 百鬼夜行とでも称すべき軍勢の後方には、巨大な影が姿を見せていた。
 白波を立てて海面を割りながら進み来るその姿は、陸地に近付くにつれて次第にその全身を海上に現していく。
 伝説の聖獣、麒麟を思わせるその姿。
 だが、その存在はあまりにも巨大過ぎ、そしてあまりにも邪悪過ぎた。
 これこそ世界結界の成立以前、源平合戦において平家が放った妖獣兵器、『大いなる災い』。
 その口から吐き出される残留思念は、今もなお新たな妖獣へと変化し続けている。
 この巨大な存在は、平家から与えられた鎌倉壊滅の使命を果たすべく、現代の鎌倉……銀誓館学園のある土地へ向かっているのだ。

 そして、石廊崎の陸地に差し掛かった妖獣達を先導するかのように、先頭に新たな一団が加わる。
「このまま大いなる災いを鎌倉へ侵攻させよ。銀誓館学園を滅ぼさせるのだ!」
 銀誓館学園の明白な敵意を示すその者達は、来訪者『妖狐』であった。
 集団を指揮する妖狐が扇を一振りすると、石廊崎周辺の残留思念が次々に『鬼』……我鳴鬼へと変化していく。

「敵が接近して来るよ。作戦の開始を!」
 コマンダー、氷月・亜羅紫(夜空に浮かぶ氷の月・b45618)の言葉に、メガリス『闘神の独鈷杵』が集まった能力者達の中央へと運ばれて来る。
 ほんの6日前、闇の格闘大会を制した能力者達の活躍で銀誓館学園にもたらされたこのメガリスが、今回の戦いで能力者達が『生命賛歌』を発動するために使用されるのだ。
「メガリスに集中して! 『生命賛歌』を発動させるよ!!」
 能力者達は、その意識と力を独鈷杵へと集中させる。
 見えざる力は瞬く間に収束し、やがて巨大な力の渦を描いていった。
 やがて渦巻く力が限界まで高まり、独鈷杵の形は次第に失われ、その内から眩い光が迸る。
 その光の温かさに能力者達が身を委ねた瞬間、能力者達の体の奥底から、偉大なる生命の賛歌が湧き上がった。

「防衛、開始!」

 銀誓館学園のメガリス破壊効果、『生命賛歌』の力を受けて、能力者達は敵陣へと向かって走り出した。
 敵陣の先鋒を務める妖獣と妖狐、そして我鳴鬼は既にこちらへの備えをしている。
 敵の守りを切り崩し、巨大なる大いなる災いをなんとしても滅ぼさねばならない。
 石廊崎周辺の伊豆箱根森林公園を舞台に、銀誓館学園の能力者と、大いなる災い率いる妖獣軍団との戦いは、今まさに幕を開けようとしていた。