<リプレイ>
●結社活動発表部門
「さて、次はどこに行くことにしましょう? まだ私、全然遊び足りないですからね……と、いけない。もうそろそろ、時間ですね」
あちこちの結社活動を見て回っていた洪・文曲(中学生妖狐・bn0240)は結社企画の人気投票の投票受付を締め切る校内放送を耳にして、急ぎ足で投票箱の元へと向かう。
既に係の生徒が開票を終えており、レポート担当の文曲に開票結果を手渡して来た。
「なるほど、こういう結果になりましたか」
ふむ、と一つ頷き、文曲はそう口にする。
「では、早速レポートに向かうとしましょうか」
どこかの運命予報士のようにメモ帳を片手に、文曲は意気揚々と入賞を果たした結社へ向かうのだった。
●第3位 『アメフトボールDE的当てカーニバル』
「さて、3位はここですね」
狐の付け耳を装着し、準備も万端となった文曲が最初に向かったのは1つの教室だ。
入口にある看板には、『アメフトボールDE的当てカーニバル』と記されていた。
客引きの手にも、楕円形をしたアメリカンフット用のボールがある。
「一回一投できますー! かごにボールを入れられたら、景品がもらえますよー!」
文曲はひょいと教室の入口から中を覗き込んだ。
教室の内部は並んだ机で仕切られており、入口から見て奥側にある壁には、大小、形もさまざまなカゴが並べられている。
それぞれのカゴには景品名が記されており、それらにボールを投げ入れる事が出来れば、記された景品が当たるというものらしかった。
室内には何人かの客がいたが、アメフトボールを投げるのは慣れないのか、なかなか苦戦しているようだ。
「ここは、『銀誓館学園アメリカンフットボール部』の企画ですね。いわゆるアメフトというやつですか。……試合見た事ありませんけど」
「は、入って来て早々、いきなり悲しい事言うね?」
「あ、これは失礼しました。怪しいものとかライバル店の妨害とかではありませんよ?」
応対に出て来た木賊・エル(土蜘蛛の巫女・b23522)に、文曲は冷や汗混じりに用件を告げる。
その間に客の一人にアメフトボールの投げ方を教え終えたダンテ・ブラック(タイガリッシュ・b22869)がこちらにやって来ていた。
「どうした、お客さんじゃないのか?」
「あ、団長」
「責任者の方ですね。見事こちらの企画が結社活動部門第3位に選ばれましたので、御連絡に参りました。はい、皆さん拍手〜」
文曲が手を叩いて促すと、事情を承知したらしい周りの客も手を叩いて祝福の意を表す。
「ハハ……あんがとな」
照れたように手を上げて応じるダンテと周りの様子を微笑で見つめ、文曲はすすっと後ろに下がる。
「では、私はこれで……」
「まあまあ、折角だし、文曲もよかったら投げていってくれよ。はい、ボール!」
葛原・流(リンクスソウル・b37977)に投げ渡されたボールを咄嗟に受け取ってしまい、困惑した様子の文曲にダンテが投げ方を指導する。
「ボールの縫い目に指かけて掴むんだ……で、あんま腕を振り回さないで、腰の回転で投げる感じで振り下ろして……」
「……こうですか?」
文曲が狙い定めて投げたボールは、曲線を描いて1発でカゴに入った。
「おお、上手い!」
「流くん、景品を……」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい」
エルの声に動こうとした流に、文曲は小声で言う。
「今のズルみたいなものですから、辞退します。ほら、私、イグニッションカードありませんから」
「「……あー」」
能力者達の納得の声を聞きつつ、文曲はそそくさと教室を後にするのだった。
●第2位 『インフィニティット・しりとり』
「次は……いわゆる定番というやつのようですね」
文曲が見る投票結果の用紙には、『3年連続入賞』の文字が記されている。
「やっぱり強いところは強いものなんでしょうか、こういうのも」
そう呟きつつ教室を覗き込んだ文曲の目に飛び込んで来るのは、しりとりの光景だった。
「『ラー油』。ごま油に、唐辛子を入れた……中華料理の、調味料……。辛いけど、中華には欠かせない感じ、かしら? 次は『ゆ』ね」
「『ゆたんぽ』。今の時期は使わない。冬の寝床の足元をあっためるもの。去年は電気で補充型や、強化プラスチック製、などいろんな商品がラインナップされました。つぎ『ぽ』『ほ』なの」
万年青・チェリ(仄彩エンドロール・b09338)と斉藤・夏輝(蒼雲桃楼・b16003)が、言葉を繋ぐ。
それは、文曲にとっても見まごうはずの無い、『しりとり』に他ならない。
「本当にしりとりなんですね?」
「いらっしゃいませー」
受付をしていた梶原・玲紋(アトミックブレイン・b03595)に用件を告げると、慣れたものですぐに団長のところに案内される。
3代目のしりとり同好会団長、萩森・水澄花(アクロポリスロマンチカ・b25457)は、第2位入賞の連絡を笑顔で受け入れる。
「言葉と共に繋ぐのは人のご縁。多くの縁が言葉に乗せて繋がって行くのがとても嬉しいわ」
「ところで、インフィニティット・しりとりとは、どのような企画なんですか?」
文曲の質問に、三島・月吉(白燐聖者・b05892)が応じた。
「それは俺から説明しよう。『インフィニティット・しりとり』とは『言葉に秘められた無限の可能性を『しりとり』によって以下略!」
「それ、そのままレポートに載せますけどいいですか?」
「長くしりとりをやろうって企画だ。インフィニティな感じなんでしりとりもハイスピード。被りにご用心」
瞬時に修正版の返事が返って来た。
突っ込み待ちだったのか、などと微妙な驚きを覚えつつ、文曲は水澄花に視線を戻す。
「普段からみんなで行っている活動なんだけど……でも、だからこそ、これは本当の意味での『結社の活動発表』だと思うの」
「なるほど、普段から楽しくやっているのを広められれば、何よりですね」
室内には卒業生の姿もあり、彼らが場を盛り上げている部分もあるようだ。
「先輩から後輩に、受け継がれる伝統というものでしょうか。受け継ぐ中で、より良くするような変化があるといいですけどね」
文曲は呟きつつ、その場を辞すのだった。
●審査員特別賞 『演劇発表<タイトル未定>』
「さて……問題はここですね」
文曲は、演劇を上演中の舞台の前に来ていた。
舞台には看板が掲げられ、パンフレットではタイトル未定と書かれていた部分には、『贋作・森羅蒼鷺亭殺人事件』の文字が大書されている。
既に劇は終幕に差し掛かっているらしく、2人の少女が舞台上で向かい合っていた。
「じっくり座ってみたいところですけど、あんまり時間もありませんからね。えーと、責任者の方は……」
文曲は照明が落とされた観客席をすり抜け、素早く舞台袖へと向かう。
「(お邪魔します。怪しい者じゃありませんよ〜)」
小声で言うと、舞台袖にいた小関・未亜(自称か弱い美少女・b08422)が振り向く。
文曲が紙に書かれた『審査員特別賞受賞』の文字を見せると、未亜は目を丸くした。
「そんなわけで、審査員特別賞受賞です」
「何がそんなわけなのか分からないけど……ありがと」
舞台『贋作・森羅蒼鷺亭殺人事件』が上演中のため、外に出て話す2人。
今回の脚本と演出を担当したのは卒業生の未亜で、実際の劇は後輩の小野寺・さくら(一陣の風・b63287)と神塚・深雪(光を紡ぐ麟姫の継ぎ手・b25296)、それに猪狩・優(演劇好きの高校生・b22937)らが演じている。
「なんだかんだ言って準備期間が3週間ぐらいしか取れなかったから、つたない部分もあるかもしれないけど、のんびり気楽に観て、適度に笑ってもらえれば嬉しい限りね」
脚本と演出という重要な部分を、ほとんど1人で担当した労は大きかっただろうが、それを大して感じさせずに深雪は笑った。
気楽に観て、お客さんが笑って帰れるようなものを目指したという彼女の言に、文曲は内心で納得する。
劇の内容は『殺人事件』と名がつくように、いわゆるサスペンスものだが、メタ視点と役者のアドリブらしきものが入りまくっており、文曲には評価不能だった。劇の長さからも、努力したことだけは伝わるのだが。
通して観て見ないと分からない部分もあるんだろう、と思いつつ、文曲は一つ気になった事を聞いてみることにする。
「ちなみに、実際のゴーストタウン、森羅蒼鷺亭との関連は?」
「無いわよ」
●1位 『【Perfect crime!!’09】』
グラウンドの一角に設けられた野外ライブ用のステージ前で、文曲は首を傾げていた。
「ここが、結社企画発表部門で1位になった企画のはずなんですけどねぇ……?」
彼女がいるのは、結社【crime−clime】の企画である恒例の野外ライブ【Perfect crime!!'09】の会場のはずだ。
文曲の見た投票用紙にも、昨晩のライブの盛り上がり具合を示すように、推薦文が書き綴られていた。
だが、ステージの周辺は人気投票1位とは裏腹の静けさに包まれている。
少し離れたところでは、メントスシャワーだのなんだのと文曲には意味の分からない危険そうな言葉が飛び交っていたが、おそらく発表内容とは関係ないだろう。多分。
「ここのはずなんですけどねぇ……」
「がらーんとしてんだろ、今」
そう言って苦笑したのは、束原・キリヱ(クルエラ・b07703)だった。
「残念、ここの見せ場は夜なんだぜ」
「あら、そうなんですか……タイミングが悪かったですね。……あなたが、団長さんですか?」
「ああ、ま、そうだな。あたしが総代。名目上の団長はこっちだけど」
キリヱが指差すと、速水・ヱリザ(セルペンス・b37949)が手を上げる。
「管理人です」
「おめでとうございます。昨年度の審査員特別賞からの1位受賞ですが、感想はいかがですか?」
「……私に聞かれても、困る」
ヱリザの薄い反応に、文曲の頬が一瞬ひくついた。
「だから、あたしに聞けって、あたしに」
大仰に腕を広げ、目に力を宿してキリヱは言う。
「昨日の晩のライブで来てくれた皆の票で、こうして1位になれたってわけだ。昨日来なかった連中も、晩になったら、あたし達のライブを見に来りゃ分かるさ。メンバーと観客が一体になった、超迫力超熱気を体感できるぜ!」
「ぶっちゃけ、ここだけ周りと10度くらい温度差あったぜ、間違いない」
熱弁するキリヱに、熱心な客の相手をしていた水野・亀吉(マイカフォンヒーロー・b19642)が言葉を付け加える。
「ああ、多分50度越えてたね。最強は、伊達じゃないってこと!」
キリヱはニヤリと親指を立てる。
「暑いのは、それほど得意じゃないんですけどね」
「それなら、ライブじゃなくて、深夜のラジオもある」
そう言葉を挟んだのはヱリザだ。
「ライブが終わって帰る人もいっぱいいたけど、学園の生活を離れた能力者の人が遊びにきてたよ。それって、凄い事だと思うんだけど」
「それは……ええ、確かに凄いですね」
文曲は素直に頷いた。それだけの魅力が、キリヱ達のライブにはあるのだろう。投票用紙に書かれた内容からも、熱いライブだったのを疑う余地は無い。
「ライブマナーを守るなら、誰でも歓迎だぜ!」
去ろうとする文曲にキリヱが投げる言葉に、少し離れた所にいた者達が歓声と野次を飛ばす。
少し話し込んでいた間にも、ライブ会場には次第に人が集まりつつあるようだ。
昨日のライブに続き、今夜のライブも盛り上がることだろう。
「この学園祭という舞台を楽しみきっているのが、彼らが人をひきつける要因なんでしょうね」
熱に浮かされたような気分を抱えながら、文曲はライブ会場を後にするのだった。
●空を見上げて
「意外に遅くなってしまいました。早く録音テープをお渡ししないと…」
全てのインタビューの収録を終え、ぱたぱたと足早に走る文曲の足取りは遅くなり、そして止まった。
「……何してるんでしょう。私」
銀誓館学園に編入して、既に一学期が過ぎた。
文曲は、自分の『本当の企み』について再確認を始める。
「私の目的は、銀誓館学園に潜入して、九尾様に有利な何らかを持ち帰る事。そして可能ならば、銀誓館に何らかのトラブルをもたらす事。敵に捕らわれた身の私が、敵地で何の成果も得られなかったのならば、それは、戦場で殺されるよりも最悪の結果なのだから…」
誰かに聞かれるかもしれない可能性を忘れ、自分の考えを声に出しながら歩く文曲。本人はまだ気づいていないが、これは文曲にとって有り得ざるべき事態である。
誰も信用するな。決して隙を見せるな。
それが、文曲のこれまでの人生だったのだから。
手に握ったインタビューマイクをじっと眺める。知らずのうちにぎゅっと握り締めていたそれは、汗で濡れていた。
「こんなこと、ばかげたニセモノだと思ってました。私がこれまで殺してきた人達に、こんな、想像もできないほどに安らいだ、幸せな人生があるなんて。そんな幸せな人々の人生を」
幸せもしらない ただの道具である自分が 奪い取っていたなんて。
空を見上げて、文曲はひとつの決意をした。
「信じて貰えなくていい。許して貰える罪ではない。でも、伝えなければ」
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