<リプレイ>

●学園祭へようこそ!
「秋一殿、こちらでござるよ!」
「ああ、萌侍くん」
 草冠・明(萌侍・bn0145)は、校門前広場で待っていた。
 周囲に集まっているのは、MMO『ディスティニーサーガ』で知り合った上級プレイヤー達。ゲーム内で銀誓館学園の生徒と交流を持った彼らは、銀誓館学園という学校があること、そして今日が学園祭であり、一般にも広く公開されているイベントであると知り、遊びに来てくれたのだ。
「ひい、ふう……よし、これで全員でござるな。それでは出発するでござるよ」
 ガイドよろしく三角形の手旗を持った萌侍が人数を確認し、「デスサガ亡き今、次はどこでプレイすべきか……」「最近オープンβやってるゲームがあって」「およ、どこどこ?」などと和気藹々と会話していたプレイヤー達に呼びかける。
「そういえば、どこを回るんだい?」
 屋台に特設ステージにグラウンド。もちろん校内にもたくさんの企画があるはず。
 以前、自宅に萌侍の訪問を受けた事もあり、すっかり顔見知りとなった秋一の問いに、萌侍はキラッと眼鏡を反射させ、自信満々に言い放った。
「銀誓館学園の全校生徒投票によって決まった、銀誓館喫茶名店の数々を巡るでござるよ!」
 多種多様、もちろん萌えもバッチリだと宣言する萌侍の言葉に「おお〜」とどよめきが走った。

 なお、広く呼びかけて行なわれた投票の結果、同率1位の喫茶店が合計で6つ(!)あった為、今回はこの6つの喫茶店を順番に巡るコースとなっている。
 それでは、最初の店に向かってみよう。

●喫茶店巡り1〜Coastline
「さて、最初はここでござる」
「な、なんと」
「これは……」
 立ち止まった萌侍の声。そして、店を目にした上級プレイヤー達はどよめき、ある者は後退り、ある者は青くなった。
 マリンカフェ『Coastline』。
 それが、その店の名前だった。
「いらっしゃいませ。ようこそ」
 彼らの目の前ではちょうど、新しい客が店内に入るところだった。出迎えたのは、空籠・朔姫(滴る翠緑・b29274)。彼をはじめ、店員は皆、海賊や水兵の格好をしている。
 海辺の小さなカフェを模した喫茶店には、マリンモチーフのインテリアが満載で、明るく爽やかなイメージを醸し出していた。
「可愛い……!」
 たまたまかもしれないが、お客さんは女の子ばかり。今運ばれてきたのはカラフルなゼリーで、その名も『人魚の泡沫ゼリー』。歓声をあげた遠座・繭(蝶を追う指先・b01015)がそれを美味しそうに食べて、思わず笑顔で微笑めば、
「えっと、あれも、おもちかえり、できる?」
 テイクアウトできそうな物は無いかと尋ねていたドロシー・ルドヴィカ(ピノチオ・b57988)が、あれも一緒に持ち帰れないかと相談を始める。
 可愛らしい少女達に明るい笑顔の店員達。
 センスの良いメニュー、海岸沿いの小洒落たカフェ……。
「な、なんという雰囲気……!」
「のぉぉぉぉ! こんなキラキラした店には入れぬ〜。ぬぅぅぅぅ〜!」
 その様子を見た上級プレイヤー達は皆、腰が引けている。必死になって首をぶんぶん振っている者までいる始末だ。
 上級プレイヤー達は顔を見合わせると、何事かを囁きあい……脱兎のごとく逃げ出した!
「あ、ちょ、待つでござるぅぅぅ〜!」
 萌侍には大変良い店に思えたのだが、ゲームばかりで色々な物への免疫が失われつつある彼らには、少々刺激が強すぎたようだ。

●喫茶店巡り2〜ねこみみ喫茶 -またたびカフェ-
「つ、次は大丈夫でござるよ!」
 そう言って萌侍が案内したのは『ねこみみ喫茶 -またたびカフェ-』。
「ふおっ! 萌えにゃんこみゃあぁ〜……」
 その名の通り、店員の衣装はウェイトレス服に猫耳、そして鈴がついたチョーカー。このチョーカーがたまらないといった声が上がるのを聞き、萌侍は胸をなでおろしつつ入店しようとする。
「いらっしゃいませなのだー!」
「まず、こちらをどうぞ」
 出迎えた店員達から差し出されたのは、猫耳だった。
「……へ?」
「しかし恥ずかしいな、コレ! まあ、カプチーノは美味しかったけど」
「いやあ、まさにネコミミワールド!」
 ごちそうさま、と出て行く四神・巽(ラブサバイバー・b10193)が猫耳を外して返却する。店内では、猫耳に溢れかえった世界を堪能しながら篠江・港(ラジカルスクランブル・b41572)がねこまんまを食べていた。
 そう、この店は、店員も客もみんな全員が猫耳をつける店なのだ!
「ぼかぁこういうのはだねぇ……」
「ま、まあ、こういうのも、たまには」
「は、恥ずかしいのぅ〜」
 上級プレイヤー達も、いろいろ言いながらもそれぞれ耳をつけて席に着く。
「んー、美味しい!」
 隣の席では、黒猫の耳をつけた笠石・未琴(ナチュラルガール・b65311)が、しろねこパフェに舌鼓を打っていた。……うん、客がミミをつけるのも、いいかも。
 ほわっとした気持ちになりながらも、ついつい緊張してしまう上級プレイヤー達。
 店員達へのオーダーもきょどってしまって一苦労だ。
 ともあれ、ひとしきり堪能した一行は、次の店に向かうのだった。

●喫茶店巡り3〜注文のわからない料理店
 到着した店の名を見て、上級プレイヤー達は首を傾げた。
「ど、どういう意味でありますか?」
「おそらく、入れば分かるでござるよ」
 萌侍に促され、おずおずと店内に入っていくご一行。チャイナ服姿のエクセル・カーリム(蒼月・b01754)に案内されて、渡されたメニューを目にしたところで衝撃が走る。
「伯爵、カテキン、天使?」
「ぽんぽこ、エイリアン、サンタクロース……」
「や、ヤンデレがありますぞ!?」
 メニューに書かれていたのは、軽食やドリンクといったジャンルに意味ありげな単語の数々。
 それ以上の解説は無い。
 そう、この店は、運ばれてくる瞬間まで何が出てくるか全く分からない喫茶店なのだ!
「げほっ、げほっ! 死亡フラグが喉に……!」
 近くの座席で咳き込んでいるのは北上・雅(中学生ヘリオン・b62884)。その不穏なセリフに上級プレイヤー達の背筋がちょっぴり冷たくなる。
 一体、どんな品が運ばれてくるのか……!?
 ごくりと唾を飲んでオーダーするが、待つ間の緊張感といったらこの上ない。
「ドキドキするよね。僕も時間とお腹が許せば全制覇を目指したかったんだけど」
 隣のテーブルのファリューシング・アットホーン(宙翔る双頭の鷲の子・b57658)の声に頷きつつも、この大量のメニューを制覇しようと考えるとは、銀誓館学園の生徒はファイナルクエストをクリアするだけあって、本当に凄いと思う上級プレイヤー達だった。

 その後、運ばれてきたメニューを見て、彼らの間ではまた一騒ぎ起こった。

●喫茶店巡り4〜花桃大正浪漫喫茶
「いらっしゃいませ! 花桃大正浪漫喫茶へようこそ♪」
 スリリングな一時を過ごした上級プレイヤー達は、次に向かった店で、満面の笑みを浮かべた女学生……藤野・沙羅(夜桜に抱かれる恋色の華桃・b02062)の出迎えを受けた。
 蓄音機から懐かしい歌謡曲が流れるこの教室は、今大正時代へとタイムトリップ。店員達は皆、大正時代の様々な衣装に身を包んでいる。
「この大正浪漫の雰囲気、すっごく素敵です!」
「ありがとうございます」
 ミシェル・ローデリック(なんとなく魔法使い・b03554)をはじめ、訪れてくれたお客様からの評判も上々で、沙羅は団員達と一緒に嬉しい笑みをこぼす。
「にしても面白いメニュー名だな……」
 三島・月吉(白燐聖者・b05892)の呟きに首を傾げた上級プレイヤー達も、メニューを見て納得した。
『はいからさんのクリームあんみつ』や『将校さんのお気に入り』はまだ普通な方で、『はじける恋の夏物語』に『桃色恋色』、『恋に恋して花桃パフェ』などは、注文するのにかなりの勇気が必要そうだ。
「こ、恋に恋してパフェひとぉっつ……!」
 特に、そういった方面への免疫の無い上級プレイヤー達には、挙動不審にならずに注文する方が難しいといえるほどの有様だった。
 そんな、こそばゆい雰囲気に思わず口数が少なくなりつつも……だが、どうやら彼らも彼らなりに店内の様子を噛み締めて、楽しんでいるようだった。

●喫茶店巡り5〜戦国風喫茶『風雲!幻桜城』
「さて次は外でござる。者共、出陣でござるぞー!」
「おおー!」
 よくわからないが萌侍に乗せられて拳を突き上げ、次に向かったのはグラウンド。
 そこには、今……。

 城があった。

「なんとぉぉぉ!?」
「塀があるぞよ」
「しゃちほことは本格的ナリ〜」
「すごいみゃ〜」
 きょろきょろしながら城に入れば、どことなくひんやり涼しげな空気が漂っている。
 そして……。
「お帰りなさいませ、お館様!」
「おおーーーっ!」
「女中でつよ! くのいちでつよ!」
 にわかに沸き立つ上級プレイヤー達。案内に立つのは、鎧姿の刈谷・紫郎(見通す者・b05699)だ。
「見事な鎧でござるなぁ。よく検証されておる。暑くないのかねぃ?」
「いえいえ、お館様の為ならば」
 歴史に目が無い上級プレイヤーから声をかけられた紫郎が恭しく頭を下げると、プレイヤーはまんざらでもない様子だ。
 メニューは勿論和食だけ。握り飯や焼き魚定食、団子に麦茶などを頼んで、戦国時代の城主気分を味わう。
 店員達はどうやら、奥にいる石動・葛馬(ルサンチマンの檻・b50559)の的確な指示でテキパキ働いているようだ。……そっちの方が明らかに城主というような気がしなくもないが、上級プレイヤー達は彼の存在を忘れる事にした。
「んん?」
 ふと見れば、2階からグループが降りてくる。その手には写真。どうやら上では戦国時代の衣装に着替えて記念写真が撮れるらしい。頼めば店員も付き合ってくれるのだとか。
 ……いないはずの人が写っていた、なんて囁きが萌侍の耳に聞こえて来たが、どうやら上級プレイヤー達には届かなかったらしい。
「「こ、これは頼むしか……!」」
 盛り上がる上級プレイヤー達に頼まれ、萌侍が店員達に声をかける。かくして超気合の入ったじゃんけんで配役を決めると、店員達との記念撮影を楽しむのだった。

●喫茶店巡り6〜ディスティニーサーガ風喫茶「冒険者の店」
「次は拙者らにとってはお馴染みの店でござるな」
 校内に戻って案内された教室には、こう書かれていた。
『ディスティニーサーガ風喫茶「冒険者の店」』と。
「「デッスサガ! デッスサガ!」」
「さすがクラン銀誓館学園! すごいぞな〜!」
 何故か始まるデスサガコール。歓声と共に店内へ向かえば、まずは衣装コーナーがお出迎え。ここでデスサガ衣装に着替えるのだ!
「ティナちゃんの格好をするぞな〜」
「俺は……(ごそごそ)……アーノルド、見参!」
「世界よ歪め、そして来たれ、小惑星(コスモ)よ! ……なーんちってね〜」
 上級プレイヤー達の動きは素早い。一瞬で自キャラのジョブの服を見つけ出すと、颯爽と更衣室に向かう。着替えたらデスサガごっこも忘れないという見事な変身ぶりだ。
 さすがハンドメイド部が出展している店だけあって、どの衣装も完成度が高い。上級プレイヤー達のイメージを破壊することなく、反対に彼らを楽しませる事ができる衣装を作れる人間は、そう多くないはずだ。
「おおう! 光輝くオムライス!」
 くるっとナイフをまわして席に着いた逢月・砂来(高校生黒燐蟲使い・b65757)は、やがて出てきた皿に歓声をあげてスプーンを伸ばす。その仕草もやはり、どこかデスサガっぽい。
 席を立った津川・美奈子(銀誓館の腹黒情報屋・b41480)の手には、店内で行なわれていたデスサガクイズに正解してゲットした無料券がある。
「いやあ、タダはええなぁ♪」
「クイズ……ぼかぁ燃えて来たよ! 来たともさ!」
 料金が浮いた事を喜ぶ美奈子だが、上級プレイヤー達にとっては意味が違う。負けられない戦いだとばかりに燃え上がると、我先にとクイズへ挑みに向かう。
「カーリー、ちょっとちょっと〜」
「そ、その名前は勘弁してください!」
 大勢押し寄せたので、手伝いに呼ばれた苅部・博士(歩く百科事典・b36122)が駆け寄りながら抗議する。だが……。
「ほうほう。君はカーリー殿というのか」
「よろしく!」
「ていうかカーリー君って僕とデスサガで会ったこと無いかにー?」
 上級プレイヤー達の脳は、キャラ名を素早くインプット。博士は彼らからキャラ名で連呼される事になるのだった。

●全スケジュール終了!
「いやあ、面白かったのう。なあ皆の者!」
「萌侍くん、ありがとうね」
 こうして人気の喫茶店を巡り、さらにその道中で彼らが興味を持った店などを覗きつつ校門前広場まで戻ってきた頃には、ちょうど、今年の学園祭も幕を下ろそうとしていた。
「楽しんで貰えたようで、拙者も嬉しいでござるよ。貴殿らにはクラン銀誓館学園の皆が世話になったでござるからな」
 ディスティニーサーガが繋いだ奇妙な縁ではあるが、彼らが楽しんでくれたなら本当に良かった。
 おそらく、こんな風に会うのも最後になるに違いない。ディスティニーサーガというゲームに夢中になっていた彼らは、おそらくまた新しい何かに出会い、夢中になっていくだろう。
 そのうち『過去のゲーム』とそれに関わっていた自分達の事も、彼らにとっては、通り過ぎた過去の出来事のひとつになるに違いない。
 少し寂しいが、彼らはあくまでも一般人。能力者である自分達とは違うのだから、その方がいいのかもしれない。
「ふっふふふ〜。さあ帰るとするぞよ〜」
「久々に高校生気分に戻れて楽しかったぜー!」
「俺なんて高校に入るの10年ぶりでしたよ〜。いやあ、若いっていいなぁ」
「あはは。それじゃ萌侍くん、じゃあね!」
「拙者も楽しかったでござるよ。さらばでござるぅ〜!」
 そうして、銀誓館学園を後にするプレイヤー達を、萌侍はぶんぶん手を振りながら見送るのだった。