<リプレイ>

●さすらいのダンサー。君の名は……
「誘われて来てみたけど、ホント凄いねー」
 パンフレットを片手に、帽子をかぶった少女がイベント会場へと入っていく。
 どのイベントも嗜好を凝らしたものばかり。見ているだけでも楽しい場所だ。
「こんなにたくさんの中から一番を決めるのは、大変そうだねー」
「否! それは難しいことではないっ!!」
 びしっと少女に指差して、眼鏡の男子学生が答えた。
「実はここにその結果がある! ……イベント企画だけではあるが」
「え? すっごーいっ! よく調べたね! で、どこが一番だった?」
 少女は彼から集計結果を見せてもらう。
「へー、あそこ結構イイ感じだったもんね。あ、あそこも入ってるんだ」
 おもしろーいっと少女は声を上げた。
「でもまだ、上位の人達への報告がまだなのだ」
「じゃあ、あたしが報告しにいくよ!」
 結果表から視線を戻して、少女は元気良くそう告げる。
「見知らぬ者に頼めるものでは……」
 少女を見て、学生は困ったような顔を浮かべる。
「だったらさ、あたしと一緒に踊ってよ。それから判断して」
「ダンス?」
 少女は学生の手を取り、一緒にダンスを披露する。ぎこちなく固いダンスをする学生であったが、その顔は次第に楽しげに笑顔に変わってゆく。
「どう? 楽しかった? ダンスってやっぱり踊らないとわからないよね」
「そうだな。踊ってみないとわからないものだ」
 うむと頷く学生。そこにちひろは。
「じゃあ、あたしにそれ、報告させて! すっごく面白そうだし、ぜひやってみたいんだ」
 そういって、お願いしてみる。
「………まあ、楽しませてもらったことだし、キミに任すとしよう。よろしく頼むよ」
 学生はそういって、ちひろに集計結果を手渡した。
「ありがとう、ちゃんと全部に伝えるよっ!」
 そういって、少女は元気良く走り出そうとする。と、そこで学生が呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待った! キミの名は?」
 華麗なターンを決めて、少女はウインクする。
「榊・ちひろ! ちひろって呼んで」

●行列のできるアンラッキークジ
 軽やかな足取りでちひろは、イベント会場を駆けてゆく。
 そして、たどり着いたそこは、行列ができていた。
「順番にならんでー」
 炎天下の中、着ぐるみを着ながら笑顔で接客するのは、クレール・アンリ(ディアマンノワール・b15435)。
「凄い行列! あたしも並んだ方がよさそうだね」
 さっそくちひろも、クレールに言われた通りに、並んで待つ。
 前の方を見ると、妙な賞品をもらって出てくる者たちが……。
「何やくじ引きやって言うから、フラっと寄ってみてんけど……」
 どうやら、仁科・三華代(中学生月のエアライダー・b66339)が当てたのは、コスプレセット(中級編)。いや、ナース服に救急箱などのナースに変身セットらしい。
「これはうちに『ダイナマイトナース』になれって事、なんやろか?」
 でも嬉しそうに受け取っている。
 次にどきどきした様子でクジを引くのは佐奈森・小草(ウィスタリア・b29227)。
「わ、人形がたっくさん! へへ、ソフビな怪獣さん、恐竜さんみたいで可愛い、な」
「おめでとう。でも着ぐるみじゃないのは残念ね」
 小草に賞品を渡しながら、リーゼル・アエラキュラ(軍服の花嫁・b30899)はちょっぴり残念そうに見える。
 と、いよいよちひろの番になったようだ。
「お、いらっしゃーい。さあさ、引いてみてくれなー」
 神室・光(蓮葉・b03118)から差し出されたのは、一つの黒いボックス。どうやらこの中にクジが入っているらしい。
「いいの? じゃあ、あたしは……これ!!」
 ちひろが引いたクジは2番。
「2番は『楽しめ楽器!セット』ですね」
 奥から出てきた一之宮・琴古(桜風花・b15280)が、賞品を持ってやってきた。
 その手にはカスタネットやハーモニカ、トランペットなどが入っている。
「わあ、ありがとっ♪ 特にこれが気に入ったよ」
 カスタネットを手に取り、リズミカルに鳴らす。鳴らすだけでなく、ちょっと踊って見せたり。
「わあ、とっても上手ですね」
「ありがと♪ あ、そうだ。実は知らせることがあってきたんだ」
 にこっと、笑みを浮かべて、ちひろは告げる。
「『StoneMarket』のみんな、おめでとう! 見事、投票で『引けばアンハッピー確率大かもしれないクジ』が3位に選ばれたよ!」
 その言葉に、その場にいた者達が、わっと歓声をあげた。
「ありがとう。やっぱ、楽しい、面白いって言ってもらえんのが一番だな」
 そういって、光は、嬉しそうに、にっと笑みを浮かべた。

●そこは懐かしい喫茶店
 ちりんと涼しげに風鈴が鳴った。
 少しレトロな雰囲気の教室。そこでは、射的で賑わうコーナーのある喫茶店であった。奥には駄菓子も置いてあるらしい。
「いらっしゃいませ」
 ちひろを案内するのは、浴衣に前掛けをつけた氷采・亮弥(青藍ヴィエチニー・b16836)。
 さっそく席に座り、ちひろはメニューを開いた。
「ん、これって……学校の給食?」
 この喫茶店でのランチは、学校の給食風で曜日別になっている。デザートやサイドメニューが通常の給食よりもグレードアップしているのは言うまでもなく。
「【金曜日セット】をお願いしますなんよ」
 少し離れた場所で、砂月・ココナ(クローバームーン・b41441)が注文していた。ちなみに金曜日セットはコッペパン、焼きそば、ポテトサラダ、牛乳、プリンの入ったセット。しかし、ココナはちょっとわがまま言って、コッペパンを揚げパンに変えてもらっていた。これも2日通ってきた成果かもしれない。
「めっちゃオススメ、甘くて美味しいで」
 揚げパン入りのセットを持ってきて、綿宮・祈一郎(クリティカルケア・b16567)がオススメしている。
「じゃあ、あたしは【火曜日セット】もらおうかな」
 ちひろも揚げパンの入っているセットを頼んだ。

 食べている間、ちひろは射的コーナーを眺めていた。
「ゆっくりあせらず、良く狙って下さいね」
 そういってティアリス・ベルンシュタイン(月虹トロイメライ・b06127)は、お客である犬塚・戦(ディスエンド・b64465)に射的のコツを教えている。
「わ、当たった!」
 どうやら、ティアリスの教えがよかったようだ。戦は上手く的に当てることができたらしい。嬉しそうにぬいぐるみを受け取っている。
「後で彼女にプレゼントしようかな」
 そんな呟きも聞こえて。
 忙しく接客している団員にまぎれるように、梶原・玲紋(アトミックブレイン・b03595)は射的台のメンテナンスなど裏方作業に徹している。
「こういうのが、人気の秘密なのかな?」
 食べ終えた頃、やっぱり賑わっている店内を見て、ちひろはそっと、遠座・繭(蝶を追う指先・b01015)
に近づいていった。
「えっと、何か御用ですか?」
「あなたが団長さん?」
 ちひろの言葉にこくりと頷く繭。ちひろは静かにこう告げた。
「おめでとう。あなたの『旧校舎の一角』の『射的&ノスタルジー喫茶『旧校舎』』が投票で二位に選ばれたよ」

●記念の一枚をあなたにも
 先ほどの店は静かな賑わいであったが、こっちはきゃあきゃあと楽しげな賑わい。
「うわあ……凄い数の衣装! どうやって集めたのかな? いや、作ったのかも……」
「いらっしゃいませ、写真館へようこそ」
 そう声をかけたのは、一条・姫乃(黄昏色の桔梗の夢・b64945)。言われるままにちひろは思わず、その写真館の中へと足を踏み入れる。
 中は3つのコーナーに分かれていた。
 一つはちひろの見た衣装コーナー。お祭りに欠かせない浴衣やなじみのメイド服。それにウェディングドレス、新撰組の羽織、車掌さんの制服など、ジャンルも多彩だ。
 二つ目は写真撮影する場所。かなりの数のお客がここで選んだ衣装を身にまとい、写真撮影を待っている。
 三つ目の場所は、スタッフも利用している休憩所。喫茶コーナーでもある。軽食やお菓子、飲み物が置いてあり、持ち込みもOKだ。そのため、こちらもかなり賑わっている様子。
「あなたの衣装も選んであげるわ。どんなのを着たいかしら?」
 ちひろを衣装コーナーに連れて行き、風見・莱花(高雅なる姫君・b00523)は、服を選ばせる。
「んー、いくつかあるんだけど、全部着てみていいかな?」
「もちろん!」
 ちひろは、棚に並んでいる衣装から数着選び、それぞれ1枚ずつ写真に撮ってもらった。
 その間にもたくさんの客が来て、一咲・さな(パイロキネシス・b58822)があたふたしながらも接客をしている。その途中、彼の友達がやってきたらしく、彼と共に衣装コーナーへと入っていく姿も。
「さあ、笑顔を見せて。記念の写真をとるからね!」
 ちひろも中世貴族の衣装を身にまとって、風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)に最後の一枚を取ってもらった。

 喫茶コーナーで休憩しつつ、ちひろはうんと頷いた。
 学園祭の記念を残すための場所。ちひろの手にも数枚の写真……いや、思い出の記念が残されていた。
「衣装、芽李ちゃんも着てみてもいいー?」
 緊張感のない台詞ではなるが、それがまた新たな客を呼ぶのかもしれない。そういう水澤・芽李(はお嬢様に憧れる・b45823)の元に、ちひろが声をかけた。
「思い出の場所ってとっても素敵だね! あたし、決めたよ」
「え? 決めたって?」
 きょとんとする芽李に、ちひろはそっと手を取り、握手する。
「あたしからの特別賞! えっと審査員特別賞だっけ。それをあなたにあげる!」
 こうして、『町外れの古屋敷』の『■写真館〜学園祭記念の一枚を〜■』が見事、特別賞を獲得したのであった。

●マイク越しに伝える熱き想い!
 学園内にあるスピーカーから時折流れてくるラジオ。
 それに耳を傾ける者達がいた。
「待ってましたー」
 ぱちぱちと拍手を送りつつ、ラジオを聴くのは秋風・一夜(風ノ蒼狗・b32944)。
「相変わらず面白いこと言ってやがるな!」
 ふと、スピーカーの方を眺め、吉国・高斗(フライング赤マフラー・b05216)も声をあげる。隣にいた少女も嬉しそうに笑みを浮かべ、頷いていた。
「今年も楽しみにしてたですよ!」
 それが流れてきたのを、姫宮・心(なんだこのマジカル・b42378)は嬉しそうに耳を傾けている。
 ふと、佐々・ささら(暁の流星・b46783)は足を止めた。自分の携帯電話の着信音が鳴っているようだ。すぐさま、出るささら。
「え? 取材で一気に人が来るから、応援に来て欲しい?」
 了解と電話を切り、すぐさまその場所へと向かう。
「それにしても、取材って誰が来るんだろ?」
 首をかしげながらも、ささらは仲間のいる結社へと向かう。その取材がラジオになるとも知らずに。
「ザンガイガーとヴェスパイダーまじかっけぇえええええええええ」
 拳を握りながら、熱く語るのは、ヨシキ・キーリング(ネタにもならなくなった伝説・b57385)。どうやら、放映されたラジオドラマがえらく気に入ったらしく。
「んー、こうやって、ラジオを聴くのも。たまにはいいですねぇ〜」
 ゆっくりとお茶を飲みながら、シャナル・ヴィンドハーフェ(魔弾奏でし風琴・b36935)は、流れるラジオに耳を傾けていた。
「メインパーソナリティさんはちょっと変態……でしたけどねぇ……」
 どうやら、パーソナリティを勤めた者はちょっと……変態だったのだろうか? それは聞いた者のみぞ知る事実。
「えっと……『丑三つ時のテンションが最高でした。リスナー参加型のドッチでSHOW! クイズがとても面白かったです。今日の放送も楽しみに待ってます☆』っと、これでよし!」
 そう投票用紙に記入したのは、神楽坂・葎華(六花を纏い舞踊る蝶・b42145)。
「今日はいつから始まるのかな?」
 わくわくした様子でその放送を待っている。
「お邪魔した結社に突撃企画があって、それで気になって聞いてたんだけど……」
 思わず近藤・好弘(高校生雪女・b48152)は苦笑を浮かべた。
「すっかり最後まで聞いてしまったね」
 そのとき見た朝焼けが綺麗だったことを思い出し、好弘はもう一度、スピーカーに耳を傾けた。
「やっぱりぼいかつ!」
 そういうのは、アリエス・ルーグエルト(ファジュルワルドゥ・b42322)。
「ラジオの内容も、ラジオだけじゃなくて音楽番組やドラマの放送、それにバラエティーなんかもあってすごく楽しめるのよね!」
 うんうんと頷いて、ラジオを聴いている。

 ちひろがたどり着いたのは、とある結社の放送室。
 未だONAIRのランプが消えない。
 そっと覗き込むと、雑用作業に忙しそうな林添・リナ(高校生魔剣士・b61895)の姿と、パーソナリティーを勤める如月・清和(魔導特捜ザンガイガー・b00587)の姿を見つけた。
 まだラジオは続いているらしく、終わる気配もない。
「うーん、どうやら声をかけるのは難しそうだね」
 残念そうにそう呟いていたが。
「そうだ、こうすればいいかもっ!!」
 どこかで拾ったダンボールとマジック。それにちひろは、おっきくそれを書いた。
『おめでとう! 一位に選ばれたのは、『ぼいすかつどう同好会』の『ぼいかつ☆生ラジオ』! メッセージもいくつかあるから、見てね! BYちひろ』
 そのダンボールの即席看板に投票してくれた人達全員のメッセージもつけた。
「これでよしっと」
 彼らがすぐに分かってくれる場所に、看板を置いておく。
「早く見てくれるといいんだけど……」
 放送室の中はハイテンションで番組を続ける清和の姿が見えた。
「おめでとう! ぼいかつのみんなっ!」
 スピーカーに乗って、リズミカルな音楽が流れてくる。どうやら、彼らのラジオで流している曲のようだ。
 ちひろはその曲にあわせて、一通り踊ると、ゆっくりとその場を後にする。
 ぴらりと、メッセージの書かれた紙が動いた。
『楽しかったよ!! また、聞かせてね!!』
 それは、ラジオを聴いていた者、全ての言葉だったのかもしれない。
 清和達がそれに気づいたのは、ちひろが立ち去って数時間後のことであった。