<ディスティニーサーガ プレイ開始!>


 邪悪なる魔法の力によって、大陸中央を支配するファンガルド王国の首都、ラスフェイルに送り込まれた『ビッグモンスタージェネレーター』。
 そこから生み出されるモンスターの大群によって、ラスフェイルの街は瞬く間に制圧された。
 冒険者諸君よ、ビッグモンスタージェネレーターを倒し、ラスフェイルの街を奪還するのだ――。
                            〜『ディスティニーサーガ』会員専用ページより抜粋〜

 以上が、MMORPG『ディスティニーサーガ』において行われるイベントの趣旨である。
 普段はフィールドやダンジョンにしか姿を現さないモンスターが、プレイヤー達の本拠地である街に襲来して来るというイベント内容。
 そして何より、ボスである『ビッグモンスタージェネレーター』を倒したキャラクターに与えられる莫大な経験値と報奨金が、一般プレイヤー達の参加意欲を煽っていた。

 だが、真実を知るプレイヤー達にとって、このイベントは恐るべき意味を持っていた。
 ディスティニーサーガは魂を吸い取るゲーム。
 ゲーム内で倒れたキャラクターが倒れる時、そのプレイヤーは魂をゲームに奪われてしまうのだ。
 そしてこのイベントでプレイヤー達が敗北する時、全プレイヤーの魂は奪われる……。
 運営会社は、このイベントを利用して、一気にプレイヤーの魂を回収にかかっているのだ。
 無論、真実を知るプレイヤー達の中にはイベントの危険性を訴える者もいたが、単なる妄言として受け取られ、逆に嘲笑を受ける事になってしまっていた。

 その陰謀を阻止するべく立ち上がった銀誓館学園の学生達の姿は今、パソコンの前にあった。
 能力者達は自宅から、結社から、あるいは銀誓館学園の視聴覚室や銀誓館学園が貸し切ったインターネットカフェからディスティニーサーガにログインし、イベントの攻略に当たらんとしている。
 ディスティニーサーガを運営する謎の組織の本拠地やデータサーバーの位置は、いまだ特定できていない。
 ディスティニーサーガプレイヤー達の魂が奪われるのを防ぐためには、このMMORPGのゲームルールに則って、イベントを突破する必要があるのだ。

 ポリゴンの草むらを踏み、数千人に達する常識外れの大規模クラン『銀誓館学園』に所属するプレイヤーキャラクター達は、イベントの舞台となるラスフェイルの街の『南東の門』に集結する。
 事件の発覚からこのイベントまでの時間がほとんど無かったため、キャラクター達のレベルは未だ低いままだ。
 だが、能力者達には銀誓館学園から大量のウェブマネーやG−Moneyが与えられ、無数の課金アイテムが惜しみなく投入されている。
 HP最大値アップ、アビリティ使用回数アップ、回復力アップ、デスペナルティ無し、攻撃力アップ、回避率アップ、狩り効率アップ、その他諸々の常識的なゲームプレイヤーが見たら眉をひそめそうな量の課金アイテムを限界まで投入する事によって、彼らは通常の同レベル帯のキャラクター達を遥かに上回る活躍が可能となっているのだ。

 ディスプレイに映る街は、生き物の気配を持たないポリゴンで作られた虚構の戦場。
 だが、敗北によって待ち受けるのは、紛れも無い大量の『死』なのだ。
 能力者達の操るキャラクター達は、順番に門をくぐってラスフェイルの街へと入っていく。
 一斉にアクセスすると動作が重くなるため、僅かに時間差をおきながら……。

「……何アレ」
「ってか今入ってった一次職、あれ全員同じクランじゃなかったか?」
 たまたま南東の門にいた一般プレイヤー達は、その奇妙に統制の取れた動きを唖然としながら見送るのだった。