<武曲七星儀 侵攻開始!>
茨城県笠間市。
茨城県の中部に位置するこの市は、古くから日本三大稲荷に数えられる笠間稲荷神社の門前町として、また笠間城の城下町として栄えてきた。
だが、その笠間稲荷神社で一般人の誰もが気付かぬうちに行われている儀式が、今まさに笠間市を破滅の淵に追いやろうとしているのだ。
笠間稲荷神社奥の院にて七星儀を行い、七星将に覚醒せんとする妖狐・武曲。
彼女が己の『尾』とすべく笠間市に集結させた百鬼夜行のゴースト達の数は数万にも及ぶ。
さらには市の北部にそびえる佐白山には七星将の一人、廉貞(れんちょう)率いる妖狐達と百鬼夜行のゴースト達が展開し、信じがたい規模の軍勢を作り上げているのだ。
廉貞によって活性化された佐白山の龍脈からも無数のゴースト達が出現し、それらもまた、武曲の軍勢に加わっていく……。
七星儀が完成する時、笠間市の人々にもたらされるのは完全なる死と破滅に他ならない。
それらを防ぐべく集結した能力者達の姿は、JR笠間駅を臨む線路上にあった。
本来ならば線路を走るはずのJR水戸線は、笠間市に入らないよう折り返し運転を行っている。道路上にも市を出入りする自動車の姿は一切無い。
しかし、その異常を認識しているのは能力者達、世界の常識から外れた者だけだ。
世界結界の作用は、ゴーストの封土と化した笠間市を現実から切り離さんとしている。
コマンダーの司・葬は、腕時計から顔を上げた。
「……時間ですね。作戦を開始しましょう」
集まった能力者達の座の中央に置かれたメガリス『鉄鎖ドローミ』に能力者達の力が集束し、その存在を力へと還元した。
その輝きと共に、能力者達の体内から生命の力が沸き起こる。
メガリス破壊効果『生命賛歌』の発現と共に、能力者達の全身には力が満ち溢れていく。
その力の充足を感じながら、能力者達はゴーストが群れ為す笠間駅への進撃を開始した。
銀誓館学園が侵攻を開始したとの報告は、伝令を通じて即座に笠間市内にいる妖狐達の側にも伝わっていた。
報告を受けた武曲は、口の端を笑みの形に歪めてみせる。
「来たか。首尾通り、各地域の防衛線で可能な限り時間を稼ぐよう伝えよ。奴らのメガリス破壊効果の有効時間は約12時間。それまでの間は、まともに相手をするだけ無駄だ」
武曲の言葉に、伝令役の妖狐は頷く。
「もっとも、この奥の宮に来るならばそれで構わない……。奴らが何度立ち上がろうと、死を懇願するまで打ちのめしてやろう。七星将の力を、恐怖と共に奴らの魂に刻み付けてやる!」
武曲を中心として、強大な力が黒い渦を描く。
七星儀を巡る戦いは、こうして始まった。
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