梯・七枝

<吸血鬼艦隊 侵攻開始!>


 長崎県佐世保市の沿岸部、湾の奥まった場所に位置する佐世保港。
 米軍第7艦隊の停泊地として知られる立神港区の岸壁周辺に、能力者達は集結していた。
 彼らがいるのは、本来であれば基地司令の許可を得た関係者以外の立ち入りが一切禁止される場所だ。だが、彼らの立ち入りをとがめる者はおろか、この区域に近付こうとする者もいない。

 この区域にいるのは、狂気の『ゲーム』によって生まれた原初の吸血鬼達によって一人残らず殺戮の限りを尽くされ、リビングデッドと化したアメリカ海軍の兵士達と、彼らを率いるヴァンパイア達だけだった。
 いずれも、間違いなく銀誓館学園の能力者達の敵だ。
 常識を守るための世界結界の効力は、戦いの場を銀誓館学園と吸血鬼側に明確に区分している。

 東シナ海から、佐世保湾内へ入って来ようとしている吸血鬼艦隊の存在もまた、一般人の意識には残らない。今まさに日本に到来せんとしている脅威を阻止することが出来るのは、銀誓館学園の能力者達をおいて他に無いのだ。
 こうしている今も、刻一刻と佐世保港に近付いている吸血鬼艦隊に入港を許せば、恐るべき原初の吸血鬼達に、日本で活動するための一大拠点を与える事になる。
 それだけは、阻止しなければならない。
 原初の吸血鬼によって蹂躙される日本の姿など、能力者の誰も望んではいなかった。
 影の城を載せた吸血鬼艦隊の母艦、クレマンソー級空母を制圧し、海中に葬ること。
 それが、銀誓館学園の能力者達に許された唯一の道だ。

「生命賛歌を発動します!」

 コマンダーの梯・七枝(お嬢様候補生・b51731)の宣言と共に、メガリス『天女の羽衣』は、銀誓館学園の能力者達の手による破壊を受け入れた。
 巨大なエネルギーが、『生命賛歌』の力へと変わって行く。
「行きましょう! 私達で、吸血鬼の侵攻を阻止するんです!」
 春のコルシカでの戦いで猛威を振るった原初の吸血鬼達の実力は、能力者達の脳裏に刻まれている。
 厳しい戦いとなることは疑いようもない。
 だが、勝利を収めなければ、大切なものを守ることも出来はしないのだ。

 コマンダーから戦闘開始の指示が飛び、能力者達は一斉に進撃を開始する。
 冬の海に、激しい戦いの風が吹き荒れようとしていた。