<リプレイ>


 鳳・武曲(中学生真妖狐・bn0283)は、投票箱の前で開票結果が出るのを待っていた。
 先程まではウロウロと落ち着きなく周囲を歩き回っていたのだが、集計スタッフの邪魔にならないようにと場所を落ち着かせたらしい。
 とはいえ、武曲の表情は明らかにソワソワとした様子で、これで尻尾でも生えていたら、せわしなくパタパタと振られていたのは間違いない。
「どの結社が人気を集めたのか、もうすぐ分かるのだな……」
 武曲は、学園祭で見かけた様々な喫茶店を思い出す。
 店員に特色がある店、メニューに特色がある店、店内のレイアウトに気を配った店。
 他にも様々な喫茶店があり、そのいずれもが、団員達の趣向を凝らしたものになっていた。
 そうした中から、最も支持を集めるのはどの喫茶店なのか……。
「なんていうか……私は楽しみだ!」
 待ち遠しさを一言で要約した武曲に、集計を行っていたスタッフが声をかける。
「鳳さん、集計結果出ましたよ」
「そうか!」
 ぱっと表情を明るくした武曲は、スタッフの手にした紙を手に取る。
「こういう結果になったのか。それじゃあ、早速インタビューに行って来る!」
 結果を手に、駆け出す武曲。
 茫然とスタッフがその背中を見送っていると、
「マイクマイク!」
 武曲は戻って来て、インタビュー用のマイクを探し始めた。

●3位 『ぎんろーわんにゃんもふかふぇ』
「よし、まずはここだな!」
 武曲が最初に訪れた喫茶店の看板には、『ぎんろーわんにゃんもふかふぇ』と記されている。
 その名前で内容が即座に推測できる良い名前だと思いつつ、武曲はドアを開いた。
「頼もう!」
「わふー」
 店内に足を踏み入れた武曲を歓迎するように現れたのは、黒色のつややかな毛並の狼だった。
(「……狼、か?」)
 内心でそう思い、武曲は首をかしげた。
 実際、その狼はヴァン・ジェルヴェール(独りの盾・b59925)が狼変身した姿ではあるのだが、
(「『わんにゃんかふぇ』で狼が出て来るということは、狼が『わん』担当なのだろうか……」)
 実際、一般の客が来ても犬だとしか思わないだろう。
 そのままヴァンに案内されて席に着いた武曲は、店内を見渡した。
 店内に目をやると、普通の店員も猫耳だの狐尻尾だのをつけており、もふかふぇの名に恥じぬ状況となっている。
「いらっしゃい、注文はどうする?」
「え? ああ、それじゃあこの【しっぽスムージー】を……って、そうじゃなかった」
 カイト・クレイドル(高校生人狼騎士・b37048)に問われ、そう答えた武曲は、はたと気づいたように言った。
「インタビューに来た!」
「へ?」
「人気投票の結果、この『ぎんろーわんにゃんもふかふぇ』が第3位に選ばれた!」
「お、マジで!?」
 表情を一層明るいものにするカイトに、武曲は頷く。
「というわけで、インタビューに来た。ということで、何か一言お願いする」
「うお、なんかテレ臭いなコレ」
 軽く頬をかきながら呟いて、カイトは口を開いた。
「みんなでモフカフェすんげえいい思い出になったぜ! こんなにたのしんでもらえたならいい思い出だよな! メニューも皆で考えたりとか、すっげーたのしかったぜ!」
 神山・大地(人狼拳士・b63102) ら、猫になったり狼になったりしている団員達が、同意するように鳴き声をあげる。店員や客達も、歓声と拍手を向けた。
 そうした様子を見て、武曲は笑みで告げると席を立った。
「良いインタビューになった。ありがとう! では!」
「がうー」
 再びのヴァンの見送りを受けて、武曲は店を後にするのだった。


●2位 『星旅喫茶〜Galactic Railroad〜』
 校舎の一角、その壁一面を占めるように描かれているのは、煙を吐きながら夜を行く、古めかしい機関車の絵だった。
 扉を開いた先には、どこか懐かしさを感じさせる鉄道車両のような装いとなっている。
「これは……また随分と手がかかっているな」
 店内に足を踏み入れ、武曲は思わず呟く。
 窓枠の外には、武曲にはどうやっているのか分からないが、まるでこの店が銀河を駆ける銀河鉄道の車両そのものであるかのように、星が流れていくのが見える。
 店内は、談話用のスペースと食事を注文するスペースに、それぞれ別の『車両』として区切られている様子だった。
 注文スペースの客がわずかに途切れたのを見計らい、武曲が近づくと、車掌服姿のジングル・ヤドリギ(吟星クリスマスロイド・b06651)が彼女に向けて一礼して来る。
「ご乗車ありがとうございます。それでは切符を拝見致します」
「え、き、切符? ……っと、別に乗車しようと来たわけじゃないんだが」
 慌てた様子の武曲にジングルは小さく首を振ると小声で、
「いえ、その……ご注文をおうかがいします、という意味なんですよ」
「ああ、なるほど」
「それと、お好きな色を、教えていただけますか?」
「えーと、それじゃ黄色で」
 その答えを聞くと、ジングルは切符に黄色いリボンを通し、武曲に手渡した。
「切符の栞です。旅の記念に、どうぞ」
「ありがとう……っていかん、いかんぞ私!」
 店の雰囲気に飲まれそうになっていた武曲は、インタビュアーとしての使命を思い出すと要件を告げた。

 団長のジャック・ボエルジ(ロックパンプキン・b51745)は、食事用のスペースの側にいた。
 が聞こえて来る中、彼は武曲の着いた席の向かいに座る。
「まず、学園祭の人気投票2位、おめでとう」
「ありがたいな。票を投じてくれた皆に感謝しよう」
 窓の外を、銀河を走っているかのような星々が流れていく中で、ジャックは鷹揚に頷いた。
「ここは、童話の」
「ああ。そこに星の童話の絵本もある。気になったら、のんびり観て行くといいさ」
「それと、『深夜のコンサートもオススメだった』という評価もあったのだが……今日はやっていないのか?」
 錘江田・水歌(鬼火・b23273)や華天・ゐ駒(は自称浪速の若旦那・b69449)のアンケートを読みながら武曲が問う。ジャックは、うっすらと笑いを浮かべて言った。
「アンコール公演もある予定なので、気になる方は是非、来てもらいたいな」
「分かった。それでは、手間を取らせたな」
 武曲はジャックに礼を言うと立ち上がり、先程の栞を手に店を後にするのだった。


●審査員特別賞 『妖怪茶屋「あやかし」』
「いらっしゃいませ〜」
「うむ、和風だな……」
 応対に出た大木・夏美(ロードオブレディ・b20748)の和装を見て、武曲はなんとはなしに感慨を覚えながら呟いた。
 店の入り口には海老茶色の暖簾がかかり、可愛らしくデフォルメされた、鵺とネコ又のオブジェが置かれている。
 そして暖簾の向こうにも、妖怪の格好をした店員達の姿が見えた。
 店内は黒く煤けた質素な板壁の店内に縁台が並び、見事に時代劇で見るような『峠の茶屋』といった風情を見事に醸し出している。
 なぜか『殺生石』という張り紙のつけられた石の着ぐるみに収まった迷惑・健(高校生真水練忍者・b16630)が軒先に吊るされていたが、事情を知らない武曲はこれをあえて黙殺した。
(「そう、インタビュアーに必要なのは、流されない心!」)
「ええと、ご注文は何に……」
「その前に」
 変な境地に至ったらしい武曲は、夏美の言葉を遮ると言った。
「用件を片付けよう。『喫茶店巡り』の審査員特別賞は、この妖怪茶屋「あやかし」が受賞となった!」
 単刀直入に用件を告げる武曲。
 本来の団長である八伏・椛(メイプルワイズ・b37345)が席を外していたため、『一日団長』と書かれた腕章をつけていた夏美は、大きな目を瞬かせた。
「え、ええ〜!?」
「そういうわけで、何か一言頼む」
「え、えと、いま臨時で店長さんやってるので、みなさん来てくださいね♪ ……あれ、これ発表の時にはもう終わってます?」
 困惑した様子でいう夏美。
(「……あれ? これではインタビュアーになっていないのではないか」)
 そう気づき、武曲は辺りを見渡した。
「この店では、貸衣装も貸し出しているんだな」
「え、ええ、そうですよ。お好きな衣装を選んでいただけます」
 ハンドメイド同好会ということは、全て団員達の手によるものなのだろう。
 鬼や天狗、河童、猫又に座敷童子、それにぬりかべといった妖怪から、奇妙なものまで様々だ。
 それをしげしげと眺めていた武曲に、五十鈴・尚人(神誓継承者・b17668)が声をかける。
「それから、妖怪試問……要するに妖怪にまつわるクイズもやってるんだ。挑戦していくかい?」
「妖怪クイズ……? ふふ、いいだろう。以前、百鬼夜行を率いていた私にかかれば!」
 数分後、武曲は敗北感漂う面持ちで店を後にすることとなった。


●1位 『花桃大正浪漫喫茶』
 武曲が最後に訪れたのは、レトロな装いの喫茶店だった。
「いらっしゃいませ! 花桃大正浪漫喫茶へようこそ!」
 団長である藍乃・弥紗(淡雪のフルール・b63239)の声を受けながら店内に踏み入ると、そこには大正浪漫の雰囲気が満ちていた。
 蓄音機からは昔懐かしい歌謡曲が流れ、さまざまな大正時代の衣装に身を包んだ店員が客を案内している。
「おめでとう! この花桃館の『花桃大正浪漫喫茶』が、喫茶店巡り人気投票第1位となった!」
 店内に入るなり、武曲は声を張り上げた。
 弥紗が目を丸くし、
「去年に続いて2年連続の1位受賞だな。おめでとう」
 喜びの声をあげる店員達を眺めながら、武曲はメニューに目を向けた。
「昨年の結果によると、メニューが特徴的という話だったが……」
 喫茶店とはいえ、この店のメニュー相変わらずメニューはそれなりに特徴的だ。
「ええと……こ、『恋に恋して花桃パフェ』……お願いしまっす」
 久遠・彼方(黄昏は愁橙を騙る・b00887)が緊張したように注文している。
「気恥ずかしいメニューが多いのだろうか?」
「その通りだ……」
 武曲の呟きに、店の外から三島・月吉(真白燐蟲使い・b05892)が同意の声を向けて来た。
 武曲は彼に近付き、マイクを向ける。
「例えばドリンクの新作『初恋』。『初恋ください』……などと男が女性店員さんに向かって頼めるだろうか? 口説いているのではないかと思われたりしたら……そう、実に照れ臭い!!」
「……何と言えばいいのか……ええと……」
 月吉の様子にしばし言葉を選んだ武曲は、短く告げた。
「意識し過ぎなのではないだろうか」
「くッ……」
 精神的ダメージを受けたらしい月吉に背を向けると、武曲は店内の片隅に目を向けた。
 そこには衣裳部屋が設置されており、大正風の衣装をレンタルするスペースとなっている。
「なるほど、これもこの店の特色ということか」
「ええ。好きな衣装を着て、お食事を楽しんでもらえるんですよ。武曲さんもいかがですか?」
 藤野・沙羅(華桃・b02062)の説明を受け、武曲は店内を見渡して考え込んだ。
「しかし、こういった場では、どういうのを着たらいいのか……」
「それでしたら、私達が見立てましょうか?」
「あ、そういうのもあるのか? じゃあ、お願いしようかな」
 武曲が言うと、男子衣裳部屋の入口に立っていた玖田・宗吾(クマー・b25426)が口を開いた。
「ここは軍服などいかがでしょう」
「「なっ!?」」
 宗吾の選択に、周囲の店員が驚きの声をあげた。

●全インタビュー終了!
 軍服姿で『花桃大正浪漫喫茶』のメニューを堪能した武曲は、意気揚々と店を後にした。
 録音したインタビューを届けに戻る途中、見覚えのある女生徒を見かけた武曲は、彼女に声を張り上げる。
「おーい、文曲!」
「あら、武曲。インタビューは終わったんですか?」
 武曲に気付いた文曲は問うが、
「うん、終わったぞ! 文曲、すごいな学園祭!」
「ええ、もちろんですよ。これが、銀誓館学園の学園祭です!」
 目を輝かせる武曲に、声を明るくして応じる文曲。武曲は彼女に、さも良い考えだと言わんばかりの表情で、
「これから、もう一度店を回って来ようと思うんだ。いいだろう?」
「……どう考えても、時間足りませんけど」
「あっ……!」
 一瞬言葉を詰まらせた武曲は、手を一つ打つと走り出した。
「ど、どうしたんですか武曲?」
「とりあえず急いでインタビュー内容届けて来てから決める!」
 最後の最後まで学園祭を楽しもうとしている武曲の姿に、文曲は好意的な微笑でやれやれと首を振るのだった。