<リプレイ>
●集計完了!
「よし、これでいい」
トントンと卓上で記録紙を揃え、ランドルフ・トンプソンは立ち上がった。
今、まさに『結社企画人気投票』の集計が終わったのだ!
「皆の声というのは、やはり参考になるものだな。だが……それぞれの結社企画を紹介するには、やはり自分自身の足を運び、しっかりと取材を行ってからでなければなるまい」
「おっ、さすがランドルフさん! よーくわかってるね!」
うんうんと頷いているのは長谷川・千春(高校生運命予報士・bn0018)。彼女はニッと笑うと、取材用のマイクと手帳を差し出した。
もとい、ランドルフの腕の中に押し付けた。
「というわけで、上位企画への突撃インタビューも、どーんとよろしくね!」
「それは構わないが……」
人手が足りないので集計だけで良いから手伝って欲しい、という話ではなかっただろうか……?
当初と話が違うような気がして、首をかしげるランドルフだが、それはそれとして結社企画を訪問するのは楽しいし、まして上位企画というならば、どのような内容なのか確かに興味はある。
「ありがとうランドルフさんっ! それじゃあ、よろしくね♪」
行ってらっしゃーいと千春に見送られ、こうしてランドルフは現地取材へ出発するのだった。
●第3位〜ねこみみ飲茶 -またたび飯店-
ランドルフが最初に足を運んだのは、校舎内の一角だった。
「そろそろのはずなのだが……」
きょろきょろと見回しながら近付くランドルフだが、目標の店がなかなか見つからない。
「ご馳走様、また来るね」
「ありがとうございましたのー。再見!」
そこで目に入ったのは、教室の入り口でそんなやり取りをしている男女だった。
と、ランドルフは気づく。その店こそが目的の店であることに。
入り口に大きな看板を下げた、この中華風の店こそ、結社『下宿処 『股旅荘』』が運営する企画、『ねこみみ飲茶 -またたび飯店-』だ。
「やはり外から見るだけでなく、実際に味わってみなければ」
「ニイハオ♪ いらっしゃいませですわ〜」
入っていくランドフルを出迎えたのは、チャイナドレス姿のストレリチア・スティレット(銀花玉狼・b59811)。その頭では、可愛い猫耳が揺れている。
「こちらがメニューですわ。当店はお値段一律1,500円で、メニューが全て食べ放題となってますの」
「食べ放題とは太っ腹だな」
だが分かりやすいな、とメニューに目を通すランドルフ。点心にデザート、様々なお茶に加えて、またたび茶なるユニークなドリンクもあるようだ。
「それから当店では衣装や猫耳の貸し出しも行っていますの」
「おー、なかなか付け心地いいな」
ストレリチアが手で示した先では、蚰樹・厳士(古森に篭りし子守り・b50877)が猫耳を試着している所だった。何故か顔に鼻眼鏡とヒゲをつけている男が、更に頭に猫耳をつけている姿は、なんとも形容しがたい光景……のようにランドルフは思ったが、銀誓館学園の学園祭では、このくらい普通なのだろうか。
記念撮影も出来るらしく、撮影したばかりの写真が配布されてもいるようだ。
「ん? あれはなんだ?」
と、店内のテーブルの一つが異様な盛り上がりを見せている。首をかしげていると、ロシアン点心という時間限定イベントなのだと解説してくれた。当たりの肉まんは1つだけ。他の5つにはユニークな味が詰まっていて、阿鼻叫喚が繰り広げられるのだという。
「今年こそリベ……。…………!!!」
伍辻・スズ(高校生真妖狐・b55297)が意を決して手を伸ばした饅頭を食べた途端、赤い顔になって悶絶する。
去年は激辛が的中したスズだが、今年は今年で激甘水あめ饅頭がヒットしてしまったらしい。
他にも辛子やら歯磨き粉やら、大変なことになっていたようだ。だが、それが店をより盛り上げているのも間違いないだろう。
「なるほど。これが人気の秘訣か」
「人気……?」
感心するように呟くランドルフの言葉に、首をかしげたのは団長でもあるクィン・ヴァーレイ(白の女王・b54298)。
「実は結社企画の人気投票で、君達の企画がグルメストリート第3位になったのだ」
「本当か!?」
一気に巻き起こる大歓声。来店していた客からも惜しみない拍手が送られるのだった。
●第2位〜家庭料理研究会(仮)のキャラ定食屋
「次は……ん? 隣なのか」
そんな事もあるのだな、とランドルフが次に訪れたのは、結社『家庭料理研究会(仮)』が運営する『家庭料理研究会(仮)のキャラ定食屋』だった。
「キャラの定食という事だが、一体どんなキャラ……何?」
怪訝そうなランドルフだったが、すれ違った女生徒が持っていた物を目にして目を丸くした。
「あまりに可愛くて、お土産にしてしまいましたわ」
そう微笑みながら歩く高砂・真理(中学生真魔弾術士・b55429)が持っていたのは、わたあめ。だがその姿は、使役ゴーストのモーラットに、どこか似ている。
「お、君も入るのかい? ケットシーまっしぐらお魚定食はうまうまだったぜ」
ちょうど店を出る所だったらしい月臣・誠(ゴーストチェイサー・b51956)の言葉に、またランドルフは目を丸くする。
ケットシー……?
その真相は、店内に入ってすぐ分かった。お品書きに並ぶ使役ゴースト達の名前。そう、この店は、使役ゴーストをモチーフにしたメニューを扱う定食屋なのだ!
学園祭だから、使役ゴーストを連れてくる訳にはいかないが、メニューのモチーフにするくらいなら、どうということは無い。
「たのもー! おススメの一品をよろしく、だぜー!」
「マンゴーファラオパフェをください」
「おう、ちょっと待ってくれな」
次々と入る注文に、応えるのは大神・末(高校生真クルースニク・b61273)。団長にして、この店の名料理人だ。見事な手際で調理を進め、完成した料理を運んでいく。
「わっふ、いらっしゃいませー!」
接客に当たっていた彼杵・天羽(高校生クルースニク・b63707)がランドルフを席に案内する。
メニューからさっき薦められた『ケットシーまっしぐらお魚定食』を選べば……瞬く間に運ばれてきた定食は美味い。確かに美味い。
「キャラクター物という可愛らしさで目を引き、だが決して見た目だけではなく、中身でも真剣に勝負する……この2つの調和が取れた融合こそが、人気の引き金になったという事か」
なるほど、見事なものだと感心したランドルフは、立ち上がると告げた。
「おめでとう! 君達のこの『家庭料理研究会(仮)のキャラ定食屋』が、グルメストリート人気投票で見事に2位を獲得したぞ!」
「えっ!?」
まさか、普通に注文して食べている客から突然、そんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。最初半信半疑の様子だった末達だが、ランドルフが本物の集計結果用紙を見せると、顔を見合わせてガッツポーズをとりながら歓声をあげた。
●審査員特別賞〜峠の時代劇茶屋 『めいりんかん』
定食を食べ終えたランドルフは、いよいよ1位の店へ向かおうとした……のだが。
ふと、賑わいを見せている店を見かけて、その途中で足を止めた。
「へいらっしゃい! 休憩がてら時代劇気分を味わってみねえかい? お客さん」
「時代劇?」
そういえば昔、テレビでそんなものを見た事があるような気がするな、とランドルフは足を止める。聞けば、時代劇の衣装に着替えて一服したり、店員との即興時代劇を楽しむことが出来るのだという。
「そうだな。少し立ち寄って行こう」
「不思議な感覚だな……」
侍の格好に着替えたランドルフは、その装いに戸惑いつつ席に着いた。
「よう参られたな、お客人。茶屋自慢の串団子はどうだね?」
ランドルフに古めかしい言葉遣いで語りかけたのは、奉行姿の南雲・レイジ(烈火の剣侠児・b47935)。団長のレイジ自らこうしていると、ついつい真似して同じように、時代劇風に喋ってみたくなるから不思議である。
「ほほう。それは興味深い。拙者にも一串いただけるでござるかな?」
(「……こんな口調で良かっただろうか?」)
いささか自信が無い顔をしながらも注文するランドルフ。店内を見渡してみれば、農民や町娘、ご隠居に火消し、猟師やクノイチなどなど、様々な格好をした大勢の客や店員達が、その格好に即した雑談を楽しんでいる。
ランドルフもその輪に混ざりながら、注文したメニューを味わう。まるで本当に、昔の日本へタイムスリップしてしまったかのようだ。
「さすが名物だけあって、焼きたては美味しい!」
と、味噌塗りの焼きおにぎりを味わっているのは、猟師の格好をした赤護・侑(紅い護葬士・b26012)だ。
「ほう、それほどに美味なのでござるか?」
「うん、絶品だよ」
それは味わって帰らなければと、ランドルフは焼きおにぎりのセットを注文する。醤油味と味噌味、それぞれの焼きおにぎりは、どちらもまた美味しかった。
「……ご奉行殿!」
「ん? お客人、何か御用かな?」
「うむ。拙者決めたでござるよ。このグルメストリート人気投票の審査員特別賞は、この峠の時代劇茶屋『めいりんかん』に進呈するでござる!」
「えっ!?」
「特別賞?」
「なんと……そのような名誉を賜るとは、光栄な事ぞ。なあ、皆」
レイジは嬉しげにそう皆を振り返る。そしてまた、この受賞を話題にして、彼らは更に話の花を咲かせていくのだった。
●第1位〜デカ盛り喫茶sole〜2010〜
「すっかり長居してしまったでござ……いやいや」
口調が抜けきらない様子で次にランドルフが目指した場所こそ、人気投票ランキングのトリを締めくくる、第1位の栄冠に輝いた店だった。
「いらっしゃいませー!」
店員達の声が元気よく出迎えてくれる中、店内に入ったランドルフは、広がっている光景にうっと言葉を詰まらせた。
知ってはいた。知ってはいたのだが……。
まるでタワーのように積み重なったホットケーキ。
普通のパスタの10人前はあろうかという量が盛られた皿が、何枚も置かれているテーブル。
普通のグラスの何倍あるか分からないサイズの巨大な器に注がれたドリンク。
そう、こここそが結社企画人気投票第1位にして、極限の極限に挑むツワモノ共が集う場所。
デカ盛り喫茶sole〜2010〜なのだ!
「今年も、相変わらずのカオスっぷりだな」
と笑う文月・裕也(朔夜の着ぐるみ探偵・b33412)の言葉が、全てを語りつくしているような気がしなくも無い有様である。
「何になさいますか?」
「ピエロギと猫焼きというのがオススメだと聞いて来たのだが」
「はーい、かしこまりました〜♪」
ランドルフのオーダーが厨房へと伝えられる。と、少ししてどこからか、何か猫に似たような悲鳴っぽいものが聞こえてくる。
「なんだ?」
「……猫焼きのオーダーが入った後、程なくして聞こえてくるこの悲鳴が、たまらなくぞくぞくするんだよね」
「!?」
戸惑うランドルフの耳に、真和・茂理(一閃華烈な蹴撃乙女・b44612)の呟きが届く。一体、どういう事なのか……!?
それはさておき運ばれてきた猫焼きは、確かに美味しかった。
人形焼きにしては随分と大きなサイズだったのだが、これがデカ盛り喫茶soleのデフォルトサイズ。一般的なお店の2倍サイズからスタートするのが、デカ盛り喫茶soleのデカ盛り喫茶たる所以なのである!
「サワークラウトとマッシュルームのピエロギ、普通サイズです」
「………………」
ポーランド風水餃子だというピエロギも、当然デフォルトは2人前。3倍や5倍、10倍もの量がじゃんじゃん行き交っているこの店では、決して大した量ではないとはいえ……。
ランドルフは苛烈な戦いを繰り広げ、なんとか辛勝したのだった。
「い、いかん。食べ終えて一息ついている場合ではない……」
大事場役目が残っているではないか、と我に返ったランドルフは、団長のサヤコ・ジェリニスカ(暁光のマズルカ・b52521)に近付いた。
「諸君らに伝えなければならない事がある。――おめでとう! 諸君らの『デカ盛り喫茶sole〜2010〜』が、今年のグルメストリートのチャンピオンだ!」
「ほんまに!?」
「やりました……やりましたよ皆さん!」
いち早く喜んだ一神・奈月(月凪・b46623)の隣で、サヤコが皆を見回す。そのまま一気に歓声が響き渡った。
今年も店内では様々なドラマが繰り広げられた。中でも特に、前人未到の120倍へのチャレンジは、残念な結果に終わったものの、皆の胸を熱くさせてくれた。
「各結社が趣向を凝らした企画を立ててはる中で、この企画がここまで盛り上がるのも、皆はんのお陰どすな」
「ええ、本当に……すごく嬉しいです。ありがとうございます!」
インタビューのマイクにそう語るサヤコ達。本当に嬉しそうな彼女達の顔を、ランドルフもまた我が事かのように一緒に喜びながら見つめる。
「来年もデカ盛りですよ!」
「おーっ!」
ミヤコが突き上げた拳に、次々と団員たちの拳が決まる。
「これは、楽しみなような怖いような……」
今から来年に向けて気合充分といった様子の彼らの姿を、戦々恐々と見つめるランドルフだった。
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